べらと、ゆかいでちょっぴりざんねんな仲間たち

「うたのれん習をはじめます」
 とビデオ制作たんとうのクマハチが言いました。 

 コーラスの真ん中で歌うのは、もちろんシンガーをめざしているモッヒです。ほかのみんなはバックにいて、ハミングしたり、踊ったりします。
「モッヒは、ほんとうに歌えるのか」
 とゴーちゃんがききました。
 べらもそう思ったことがありますが、本人がシンガーをめざしているので、上手にちがいないと思っていました。

 まずは発声から始めることにしました。リビングには、大きなグランドピアノがあるので、そこに集まりました。
「このピアノは、べらちゃんのでちゅか」
「うーん、ここの家に来た時から、ここにあったの」
「この家は借りているのでゅか」
「この家はわたしのものよ」
「ピアノは前に住んでいた人が、おいていったということかい?」
 とモッヒです。
「そうね」
 うそはつきたくないし、でも話したくないというオーラが出ています。
「前に住んでいた人って、どんな人?」
 と、またモッヒがききました。
「うーん、それはまた後でね。・・・・・・さっ、レッスンしましょう」
 とかわされました。

「べらはちゃんは、ぼくが質問すると、答えてくれないんだ」
 とモッヒのくちびるが突きでて、はながぴくぴくしています。
「そうじゃないのよ」
 とべらが言いました。
 みんながべらを見つめました。
「悲しくて、言えなかっただけ」

「かなしいことは、いわなくてだいじょうぶでちゅ。そうでちゅよね」
 マリンがみんなのほうを見ると、賛成の目はしていません。よけいなことを言うなという顔をしてにらんでいます。

「あのね」
 とべらが心を決めたように言いました。
「この家も、ピアノも、前に住んでいた人のものよ。その人はもうここにはいないの。家も、ピアノもわたしにくれたの」
「そのひとは、どこに行ったんでちゅか」
「そのひとは、あそこ」
 べらちゃんが上を指さしました。

「天井にだれかいるのかい?」
 とトットです。
 その上よ、とべらが手をもっと上にあげました。
「ぼくがきたところ?」
 とゴーちゃんです。
 うん。べらちゃんはうなずきましたが、その話をするのはつらすぎる、という空気が伝わってきました。
「じゃ、れんしゅうを始めましょう」
 とクマハチが言いました。
「それがいいでちゅ」
「おまえはうるせえ。でしゃばるな」
 とモッヒがマリンをどなりました。
「ことばには気をつけましょうね」
 とべらが注意しました。

「さいきん、べらちゃんはマリンばっかりかわいがっている」
 とトットが口をとがらせました。
「ぼくもそう思うぜ」
 モッヒがうなずきました。
「そ、そんなこと、ないわよ。わたしたち、ハッピー・ファミリーでしょ」
「でも、べらちゃんはマリンが来る前は、もっとぼくたちの相手をしてくれました」
 クマハチも泣き出しそうです。
「わたし、みんなのことがだれも同じくらい大好きよ。ほら、この5本の指みたいに。指にはどれが大事とかないでしよ。みんな同じくらい大事なのだから」
「はいっす」
 とモッヒが手をあげました。意見があるようです。
「モッヒくん、どうぞ」
「べらちゃん、ひとさし指と小指を比べたら、やっぱりひとさし指のほうが大事なんじゃないかと思うんだ。ぼくのうちでは、弟が人さし指で、ぼくが小指みたいだったから、よくわかるんだ」

 これはちょっとたとえがまずかったかな。べらはたとえを変えることにしました。
「たとえば、お花屋さんのお花なんかはみんな同じにきれいでしょ。みんなオンリーワンの大事な花だもの」
 そんな歌がありました。
「はい」
 今度はクマハチの手が上がりました。
「クマハチくん、どうぞ」
「べらちゃん、同じ根っこから育った花でも、きれいなのと、そうでないのとあります。ぼくは花のことはくわしいんです。ハチが行く花と行かない花があります」

 このたとえもまずかったようです。
 いやいや、まったく。
 みんなに同じ態度で接することのむずかしさを知ったべらなのでした。