洛陽夜曲

まとわりつくような縁談の話に加え、違法薬物のシマへの流入は、
京司の胃の腑をさらに重く灼いた。
京司は、壁際に控えていた山城仁に視線を投げた。


「山城、ちょっとええか?」


山城は、もう一人の補佐である錨とは対照的な男だ。
騒がしく自己を主張する錨に対し、山城は常に気配を殺し、
ただ静止した時間の中に立っている。


「――はい、カシラ。何でしょうか」


山城の返答は、短く、硬い。余計な感情を一切削ぎ落としたその声が、
冷え切った事務所の空気に静かな波紋を広げた。


「最近、シマに『氷』が出回っとるという話、耳にしとらんか?」


不意を突かれた山城の表情に、微かな動揺が走った。
凪いでいた水面に小石を投じられたような、一瞬の波紋。


「いえ……初耳です。どこぞの半グレどもが、
身の程知らずに小銭を掻き集めているのでしょうか」

「その『氷』の出どころ、洗ってみてくれへんか」

「承知しました」


短く応じた山城は、深々と頭を下げた。
重苦しい静寂が支配する事務所を後にする彼の背中には、
夜の帳が静かに降り積もろうとしていた。


一方、見合いという名の「審判」が、秒読みの段階に入っていた。


「カシラ、例の縁談はどう転びましたんで?」


錨の問いには、隠しきれぬ好奇のいろが滲んでいる。


「…週末に東山の料亭や」


京司の返答は、まるで他人事のようであった。
その声音には、自身の運命に対する一欠片の執着すら見当たらなかった。

京司から違法薬物の内偵を命じられて数日。山城の足取りは、突如として夜の祇園からぷつりと途絶えた。


「錨……山城のやつ、まだ連絡つかへんのか?」

「……はい。端末の呼び出し音すら返ってきません」


いつもなら鼻につくような軽口で場を茶化すはずの錨だったが、
その声は低くひび割れ、
湿り気を帯びた沈黙が、ただ二人の間に重苦しく居座っていた。