洛陽夜曲

「貸しを数えるんは、俺と対等な相手に対してだけや。
子供の遊びにツケを回すほど、九条の名は安ない」


「私は子供ではありません。もう22歳です」


「そうか。せやったら俺からみればまだ子供に間違いあらへんなあ」


彼女の問いを鮮やかにいなしながらも、その瞳は決して
彼女を蔑ろにはしていなかった。

その口元には、心地好い遊戯に興じるような、淡い悦びが滲んでいる。

思考の迷路を彷徨っていた彼女の意識が、ひとつの真実に辿り着く。

彼を射抜くようなその視線には、もう一点の翳りもなかった。

鈴華は、自らの魂を差し出すかのように言葉を置いた。


「では、温かなお心遣いに甘えてしまってもよろしいでしょうか」


濃紺の闇に溶けるような黒髪が、風に誘われて淡い軌跡を描く。

背伸びをしたような硬い口調は、鈴華のひたむきさの裏返しだろうか。

たどたどしくも気高いその響きは、濁りのない一矢となって、
彼の心の核心を射抜いた。


鈴華の言の葉を受け、彼は深く、満ち足りた微笑を湛えた。


「もちろんや。なら早速明日にでもうちのもん紹介したるわ」


鈴華がみせた微かな安堵を、彼は逃さなかった。張り詰めた糸が切れた刹那、

彼女の瞳に宿ったのは、どこにでもあるはずの、

けれど彼女が持てなかったはずの幼さだった。

心の震源に宿った熱を、彼は複雑な疼きとともに飲み込む。

それは救いであると同時に、彼を縛り付ける甘い楔のようでもあった。


“この娘は一体何背負うてるんやろう…”


銀の光を纏い、風にほどける黒髪。そのあまりの無防備な美しさに、

彼の胸中に幾重にも絡み合う複雑な震えが、静かに波紋を広げるのだった。