洛陽夜曲

翌朝、鈍色の重みを孕んだ陽光が、
京司の割れるような頭痛を容赦なく急かした。
事務所の重厚なドアを開いた彼は、崩れ落ちるようにして椅子へ身を投じる。
深く、深く沈み込む背もたれに身を委ね、片手で額を覆ったその姿は、
昨夜の残滓を無理やり繋ぎ止めているかのようだった。

「カシラ、二日酔いですか。貴方にしてはお珍しい朝ですね」

規則的な打鍵音を室内に響かせながら、
若頭補佐の錨が視線も上げずに問いを投げた。
青白いモニターの光に照らされたその横顔は、
淡々と事務作業をこなしつつも、
京司の珍しい失態を愉しんでいるかのようでもあった。


「なんや。どないしたんや。お前までそんな歯切れの悪い顔して」

京司がわずかに眉を寄せ、促すように問いかけた。
錨はパソコンを打つ手をそっと止めた。
その動作には、いつもの冷静沈着な彼らしからぬ、
微かな“迷い”が混じっている。


「……お見合いの相手、もしかして山城銀行頭取のご令嬢ですか?」


京司はわずかに眉を寄せ、探るような視線を向けた。
次の瞬間、錨の身体から、日常を彩っていた柔らかな体温がふっと消えた。
彼は吸い寄せられるような予備動作もなく、無機質に、
くるりと京司の方へ向き直る。その顔に、いつもの人懐っこい笑みはない。


「…なんで知ってるんや、それ」


「カシラに執着する女なんて、それこそ星の数ほどいます。
けれど、あのお嬢様だけは……」


京司の声には、苦虫を噛み潰したような不快感が滲んでいた。


「裏で立ち回っていたのは把握していましたが、
いささかやり方が露骨すぎます」

「迷惑な話やわ」


吐き捨てられた言葉が、密室の空気を冷たく撫でる。
錨は、どこか突き放したような笑みを唇の端に浮かべた。


「泣きついたんでしょう、頭取という肩書きを持つ父親に。
オヤジに不正融資の件でもちらつかせて、強引に首を縦に振らせた。
オヤジがが経営している店も、近頃は火の車だと聞いていますから」


錨は神妙な顔つきで京司に問うた。


「…どうするおつもりですか?」