洛陽夜曲

「日時はまた連絡するわな」


京司の返事など、最初から期待も考慮もされていない。
見合いという名の決定事項が、冷徹な事実として卓上に置かれた。
京司は肺の奥に溜まった重い空気を吐き出すように、ようやく口を開いた。


「身に余るお話だということは、重々承知しております。
ですが……私には将来を約束した女性がいます」


それは、喉の奥に刺さった棘を無理やり引き抜くような、
苦渋に満ちた告白だった。
京司の決死の告白は、確かに組長の耳に届いたはずだった。
だが、男の鉄面皮に揺らぎはない。
彼は何事もなかったかのように、手元の新聞へと視線を戻した。
紙の擦れる乾いた音だけが、重苦しい沈黙を刻む。


「そしたら、早うケリつけんとあかんなぁ。
見合いの日までにきれいに清算しとくんやで」


淡々とした、血の通わない通告。京司は息を詰まらせ、言葉を失った。
全身の血が逆流するような衝撃が走り、
膝元で固めた拳が、制御不能な怒りと絶望に細かく震えていた。
震える指先を掌の中に隠し、京司は無言のまま深々と頭を下げた。
視界の端で揺れる畳の目が、まるで己の人生を嘲笑う無数の口に見える。

(俺の人生を、玩具か何かと履き違えとるんか)

胸の内で繰り返される独白は、外へ溢れ出すことを許されず、
熱い鉛となって喉元に閉ざされた。
邸宅の門を潜り抜けても、夜の冷気さえその怒りを冷ますことはできない。
彼はただ、やり場のない激情の塊を引き摺るようにして、
暗がりの街へと消えていった。


---使い古された琥珀色の時間が、クリスタルの中で静かに揺れている。

馴染みのバーの隅、京司は喉を焼く酒精を煽ることで、
胸の内に燻る苛立ちを鎮めようとしていた。
しかし、組長から持ちかけられた「縁談」という名の呪縛は、
冷えた鎖のようにじわじわと彼の四肢を締め上げ、自由を奪っていく。

グラスの底で氷が鳴る。その硬質な音さえも、
逃げ場のない現実を告げる鐘の音に聞こえた。


「断ることは……できひんやろなぁ」


吐き出された独白は、紫煙に巻かれて力なく霧散する。
それは自嘲を孕んだ諦念か、あるいは静かな絶望の吐息か。
男の輪郭を縁取る薄暗い照明が、
逃れられぬ宿命の深さをいっそう際立たせていた。