洛陽夜曲

長い沈黙の末、鈴華が震える唇を割り、静かに、
だが確かな決意を込めて言葉を紡いだ。

「私も……京司さんの傍にいたい。あなたの隣にさえいられれば、
私、それだけで……」

その震えるような告白が鼓膜を震わせた瞬間、京司の表情が劇的にほどけた。
まるで、厚い雲の隙間から一筋の強烈な光が射し込んだかのように。
暗く沈んでいた彼の瞳に、一気に鮮やかな色彩が宿った。

「……けれど、私は結局、
父が大金と引き換えに差し出した“商品”に過ぎないんです。
私の意志ひとつで、六穣会という場所から消えることなんて……
できっこないんです」

鈴華の声は、足元の闇に吸い込まれるように弱々しかった。
抗えない過去に縛られ、未来をあきらめきった、乾いた響き。 
だが、それを断ち切ったのは、京司の剥き出しの熱量だった。

「君という人間に、金で値打ちがつくなんて思うてへん!……けどな、
もし金で話がつくっていうんなら、いくら積んでも構わへん。端金や」

低く、けれど心臓の奥まで震わせるような強烈な言葉。
京司の瞳には、打算も躊躇もなかった。
あまりに真っ直ぐで、暴力的なまでの献身。 
鈴華は息を呑み、言葉を失った。
差し出された救いの手が、今の彼女にはただ、眩しすぎて恐ろしかった。

鈴華のさらなる抗弁を封じるように、
京司は吸い寄せられるようにその唇を重ねた。

吹き抜ける秋風が二人の輪郭をなぞり、
季節の移ろいを告げる乾いた空気が周囲を包み込む。
時の刻みを忘れさせるほどに深い、静謐な抱擁。
どれほどの刹那が流れただろうか。
やがて、示し合わせたような名残惜しさをもって、
二人の吐息は静かに分かたれた。

京司は逸らすことのない、射抜くような眼差しを鈴華に注ぐ。
その大きな掌が、彼女の柔らかな頬の温もりを慈しむように
そっと包み込んだ。

「近いうちに、必ず槇村会長に時間をもらうて話に行く。……だから」

「俺を信じて、待っててくれへんやろうか?」

京司のその言葉は、秋の風音に溶けていくような静かな決意を秘めていた