洛陽夜曲

静寂に支配された秋の深淵で、二人は燃え盛る紅葉の海をただ見つめていた。
色づいた葉が波のように揺らめき、
沈黙のなかに鮮やかな情念を滲ませている。

不意に、京司がその静寂を破るように指を伸ばし、
鈴華の頬をそっとなぞった。


「……傷、もう大丈夫なんか?」


慈しむような、それでいてどこか切迫した彼の問いに、
鈴華は秋の陽だまりのような微笑を返す。


「ああ見えてお兄ぃは手加減してますから」


努めて軽やかに響かせた言葉を、京司はかき消すように呟いた。


「それでも……君が傷つくんは耐えられへん」


その声は、震える木の葉よりも脆く、切実だった。
頬に触れた京司の指先から、熱い脈動が流れ込んでくる。
それは単なる体温ではなく、胸の奥に閉じ込めていた祈りや痛みが、
皮膚を通じて溶け出してきたかのようだった。
鈴華は、その指先から伝わる静かな熱量に身を任せ、
紅葉の海がさらに深く、色濃く染まっていくのを感じていた。


「もう二度と、会えないかと思ってました……」


鈴華の口から零れ落ちたのは、独り言のような、
あまりに無防備な本音だった。


「俺もや。……ずっと君のことばかり考えとった」


その言葉が、彼女の張り詰めていた緊張を溶かしていく。


「こうして一目だけでも会えて、本当に嬉しい…。
ずっと、ずっと…会いたかったから」


震える声で紡がれる言葉が、二人を隔てていた空白の時間を、
静かに埋めていった。
鈴華の言葉を溶かすように、京司はその腕で彼女を優しく、
しかし確かな体温を持って包み込んだ。

季節は移ろい、秋の気配を帯びた風がふたりの間を吹き抜けていく。
色づき始めた紅葉が、乾いた音を立ててさざめき、
それが唯一の、そして静謐な世界の鼓動のようだった。


「俺かて……どれほど、君に会いたいと思てたか」


絞り出すようなその声と共に、京司の腕にさらなる力がこもる。
それは、二度とこの温もりを離さないと誓うような、
切実なまでの愛惜の情だった。


「もう君を…離したくないんや」