祭りの喧騒が遠のく中、溶け合うように消えていく二人の背。
神野と婦人たちは、ただ無言でその余韻を見送っていた。
京司の背中を追っていた誰かの唇から、
吐息とともに密やかな独白がこぼれる。
「……ありゃあ、忍ちゃんでは太刀打ちでけへんわ」
その場にいた者たちの間に、否定の余地のない沈黙が広がり、
皆が静かに首を縦に振った。
圧倒的な“正解”を突きつけられたかのような、奇妙な敗北感。
しかし、神野だけは違った。彼は独り、
夜の空気を震わせるように愉快な高笑いを上げた。
「うちの和田とて、なかなかの逸材やと思うとったんやが……。
いやはや、敵わんなぁ」
その笑い声には、自慢の身内を出し抜かれた悔しさよりも、
抗いようのない運命の結末を目の当たりにした清々しさが混じっていた。
---祭囃子の遠鳴りと、幾千の足音が舗装された道に混ざり合う。
賑わいの中心にいながら、京司と鈴華を包む空気だけは、
どこか透明な膜で隔てられたように静止していた。
肩が触れそうで触れない、絶妙な距離。二人は互いの吐息を感じながらも、
視線は雑踏に紛れるように前方へと投げている。
沈黙という名の探り合いを断ち切ったのは、
鈴華の、鈴を転がすような、けれどどこか硬い声だった。
「――どうして、ここに?」
京司は一瞬、歩みを緩めた。彼は記憶の断片を拾い集めるように答える。
「神野総長から祭りの誘いを受けてな。…まさか、君がこの場所にいるとは。夢にも思わんかった」
不意に口を突いた本音は、
祭りの喧騒に溶けてしまいそうなほど微かな響きを帯びていた。
京司の問いかけに対し、鈴華は伏せたまつ毛を震わせる。
「……謹慎のようなものです。
今は神野一家の預かりの身となっていますから」
その告白が落ちた瞬間、京司の表情から穏やかさが消えた。
端正な眉間に深い溝が刻まれ、その瞳には夜の冷気よりも鋭い痛みが走る。
彼は絞り出すような、掠れた声でこぼした。
「すまん。……俺のせい、やな」
自責の念を含んだその言葉は、祭りの華やかな灯りに照らされながら、
ひどく暗く、そして重く二人の間に横たわった。
「京司さんのせいじゃありません」
その凛とした声が、夕暮れの空気に溶けていく。
「……俺の短慮のせいで、六穣会にまで泥を塗ってしもうた。情けないわ」
自嘲気味に吐き捨てた京司の言葉は重い。
けれど、隣を歩く彼女は迷いのない視線を彼に向けた。
「……それでも私、嬉しかったんです。あなたが私のために、
あんなに怒ってくれたこと」
縁日の喧騒が遠ざかり、露店の灯りが背後へ消えていく。
人影の絶えた参道には、ただ二人の靴音だけが規則正しく響いていた。
苔むした古びた石段を、一歩ずつ確かめるように登っていく。
息が少しずつ白くなり始めるのを感じながら、ようやく最後の一段を越えた。
その瞬間、視界が劇的に開けた。
頭上に広がるのは、どこまでも高く澄み渡った秋の青空。
そして、それを縁取るように山全体を燃やし尽くす、圧倒的な紅葉の色彩。
逆光に透ける鮮烈な赤は、
まるで二人の間に漂う沈黙を祝福しているかのようだった。
神野と婦人たちは、ただ無言でその余韻を見送っていた。
京司の背中を追っていた誰かの唇から、
吐息とともに密やかな独白がこぼれる。
「……ありゃあ、忍ちゃんでは太刀打ちでけへんわ」
その場にいた者たちの間に、否定の余地のない沈黙が広がり、
皆が静かに首を縦に振った。
圧倒的な“正解”を突きつけられたかのような、奇妙な敗北感。
しかし、神野だけは違った。彼は独り、
夜の空気を震わせるように愉快な高笑いを上げた。
「うちの和田とて、なかなかの逸材やと思うとったんやが……。
いやはや、敵わんなぁ」
その笑い声には、自慢の身内を出し抜かれた悔しさよりも、
抗いようのない運命の結末を目の当たりにした清々しさが混じっていた。
---祭囃子の遠鳴りと、幾千の足音が舗装された道に混ざり合う。
賑わいの中心にいながら、京司と鈴華を包む空気だけは、
どこか透明な膜で隔てられたように静止していた。
肩が触れそうで触れない、絶妙な距離。二人は互いの吐息を感じながらも、
視線は雑踏に紛れるように前方へと投げている。
沈黙という名の探り合いを断ち切ったのは、
鈴華の、鈴を転がすような、けれどどこか硬い声だった。
「――どうして、ここに?」
京司は一瞬、歩みを緩めた。彼は記憶の断片を拾い集めるように答える。
「神野総長から祭りの誘いを受けてな。…まさか、君がこの場所にいるとは。夢にも思わんかった」
不意に口を突いた本音は、
祭りの喧騒に溶けてしまいそうなほど微かな響きを帯びていた。
京司の問いかけに対し、鈴華は伏せたまつ毛を震わせる。
「……謹慎のようなものです。
今は神野一家の預かりの身となっていますから」
その告白が落ちた瞬間、京司の表情から穏やかさが消えた。
端正な眉間に深い溝が刻まれ、その瞳には夜の冷気よりも鋭い痛みが走る。
彼は絞り出すような、掠れた声でこぼした。
「すまん。……俺のせい、やな」
自責の念を含んだその言葉は、祭りの華やかな灯りに照らされながら、
ひどく暗く、そして重く二人の間に横たわった。
「京司さんのせいじゃありません」
その凛とした声が、夕暮れの空気に溶けていく。
「……俺の短慮のせいで、六穣会にまで泥を塗ってしもうた。情けないわ」
自嘲気味に吐き捨てた京司の言葉は重い。
けれど、隣を歩く彼女は迷いのない視線を彼に向けた。
「……それでも私、嬉しかったんです。あなたが私のために、
あんなに怒ってくれたこと」
縁日の喧騒が遠ざかり、露店の灯りが背後へ消えていく。
人影の絶えた参道には、ただ二人の靴音だけが規則正しく響いていた。
苔むした古びた石段を、一歩ずつ確かめるように登っていく。
息が少しずつ白くなり始めるのを感じながら、ようやく最後の一段を越えた。
その瞬間、視界が劇的に開けた。
頭上に広がるのは、どこまでも高く澄み渡った秋の青空。
そして、それを縁取るように山全体を燃やし尽くす、圧倒的な紅葉の色彩。
逆光に透ける鮮烈な赤は、
まるで二人の間に漂う沈黙を祝福しているかのようだった。
