洛陽夜曲

喧騒に包まれた参道には、色とりどりの露店が軒を連ね、
ひしめき合う人々の熱気が渦を巻いている。
その雑踏の中を、神野はあくせくすることなく、
地を踏みしめるような泰然とした足取りで進んでいく。
その姿を見つけるや、道行く人々が次々と足を止め、
親しみを込めて深く頭を下げた。
交わされる挨拶の端々には、長きにわたる歳月が育んだ親愛と、
この地に根ざした者同士の無言の絆が滲んでいる。

---やがて賑わいの中心を離れ、
静謐な空気が漂い始めた社務所のあたりまで来ると、
そこには湯気を上げる大きな釜を囲む婦人たちの姿があった。
秋空の下、振る舞われる汁粉の甘い香りが、澄んだ空気に溶け込み、
辺りを柔らかな温もりで満たしている。

女性達の中に唐突に突きつけられた光景に、京司の思考は白濁した。
視線の先に佇むのは、決してここにいるはずのない鈴華の姿だった。


「君……どうして、ここに」


肺から空気が抜け落ち、鼓動さえもがその律動を忘れたかのようだった。
網膜に焼き付いた彼女という実在があまりに強烈で、
京司の意識は肉体から切り離されたかのように硬直し、
ただ凍りついた時間の中に立ち尽くしていた。

神野は、傍らで立ち尽くす京司の動揺を歯牙にもかけぬ様子で、
春風のような軽やかさをもって婦人たちの輪へと分け入った。


「皆様、実にお精が出ますな」


その朗らかな声音に弾かれたように、婦人達が一斉に顔を向ける。
その色とりどりの視線の中に、鈴華の瞳があった。


「京司さん、どうして……」


鈴華の唇から漏れたのは、祈りにも似た微かな戦慄だった。
彼女の時間は、まるでその場で氷結したかのように止まっている。
その眼差しは、抗いようのない引力に導かれるまま、
ただ一点──京司という存在に釘付けになっていた。


「鈴華さん。客人の案内をお願いしたいんやけど」


神野の低く落ち着いた声が、静止していた鈴華の意識を鋭く突き刺した。


「わ、わかりました……」


弾かれたように我に返った彼女は、微かに上気した頬を隠すように、
髪を纏っていた布をさらりと解く。
続けて、指先に焦燥をにじませながらエプロンの紐へと手をかけた。
しかし、震える指先は頼りなく、結び目に触れるたびにもどかしく宙を泳ぐ。
その微かな震えは、内側に秘めた動揺を饒舌に物語っていた。