洛陽夜曲

車が停車するや否や、居並ぶ若衆たちの威勢のいい影が、
京司を包み込むようにして出迎えた。


「遠路はるばる、よくぞお越しくださいました。
オヤジは今、宮司や地区の重鎮方と膝を突き合わせておいでですので
少々お待ちください」


京司は導かれるまま客間に足を踏み入れ、静かにその身を落ち着けた。
木々のざわめきを越えて、遠い祭囃子の調べが、
揺らめきながら彼のもとまで届いてくる。
その微かな喧騒が、室内の静寂をよりいっそう深いものにしていた。

やがて、衣擦れの音とともに神野が姿を現した。


「おお、烏丸の若頭さん。遠路はるばる、よくぞお越しくださった」


その朗々たる声に呼応するように、京司は座布団を折って深々と頭を垂れた。
畳の目を数えるかのようなその丁寧な一礼は、張り詰めた緊張感の中に、一片の揺るぎない矜持を滲ませていた。


「お招きにあずかり、誠にありがとうございます。
九条組若頭の烏丸でございます。
本日、秋季例大祭が、かくも厳粛かつ盛大に執り行われましたこと、
心よりお慶び申し上げます」


「こんな僻地の、指で数えるほどしか人が集まらん祭りに、
九条の若頭さんがわざわざ……。何やら申し訳あらへんなぁ」


神野のねっとりとした言葉が、耳の奥にこびりつく。
京司は表情ひとつ変えず、ただその視線に深い敬意と、
それ以上の底知れなさを込めて応じた。


「神野はんにお招きいただけるんやったら、
たとえ地の果てであろうと馳せ参じますよ」


ふと、会話が途切れた。遠くで響く祭囃子と木々のざわめき。
京司はその“間”を支配するようにゆっくりと口を開き、神野の真意を問うた。


「…どうして私に、お声を?」


京司の言葉は、探索するように神野の懐へと滑り込んだ。
神野はそれを鷹揚に受け流し、愉悦を隠しきれない様子で笑い声を上げた。


「なあに、余生を弄ぶ老人の我儘や。関西一円に轟くその名を、
一度膝を突き合わせて拝みとうなってな」


神野の眼窩の奥に宿る湿り気を帯びた光に、京司は一瞬の迷いを見せたが、
すぐさま感情を深淵へと沈め、鉄の無表情を取り戻した。


「せっかくやさかいに、祭りをご案内しましょか」


神野は机に置いた両手にゆっくりと体重を預け、
重心を確かめるようにして腰を上げた。
その静かな所作に、京司は気圧されるような感覚を覚える。

促されるままに、神野の長い背中を追って一歩を踏み出した。

(…ほんまに祭りを見に行くつもりなんやろか。)

神野の意図が読めない。その一抹の不安が、京司の襟首をかすめた。