「すんません。総長にお取次ぎ願いませんか?
大阪から来ました六穣会のもんです」
早緑は、静寂に包まれた庭先で背を丸める老人に声をかけた。
竹箒が落ち葉を掻く規則正しい音が、不意に止まる。
老人は急かす風もなく、悠然とした動作で振り返った。
その瞳が早緑を捉えると、深く刻まれた目尻の皺がさらに深くなる。
「ああ、槇村さんとこの。ようおいでくださった」
浮かべたのは、秋の日だまりのような朗らかな笑顔だった。
老人は手際よく紅葉の山をまとめると、傍らの壁に箒を立てかける。
一歩、また一歩。砂利を踏みしめる柔らかな足音を響かせながら、老人はゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。
「これは驚いた。若衆たちが色めき立つような、えらい別嬪さんが来たものだ」
老人の快活な声が、陽だまりの中に弾ける。ふいに視線を向けられた鈴華は、一瞬だけ瞳を揺らしたが、
すぐに柔らかな微笑を湛えて深く頭を下げた。
「至らない身ですが、よろしくお願いいたします」
「総長はどちらにおいででしょうか?」
早緑がそう問いかけると、目の前の老人は喉を鳴らして愉快そうにほほ笑んだ。
「総長、なんて呼ばれたのは……はは、随分と久しぶりやな」
「えっ……!?」
思いも寄らぬ返答に、早緑は言葉を失った。目の前の老人は、深くなった皺をさらに刻ませて、
彼の狼狽ぶりを愉しげに眺めている。
「驚かせたかのう。こんなちっちゃな老いぼれが、あんたの探しておる男だとは思うまい」
その柔和な眼差しの奥に、一瞬だけ鋭い光が宿る。この小柄で穏やかな老人こそが、
〝神野一家”の頂点、総長・神野宗一郎その人であった。
「し、失礼いたしました……っ!」
早緑はあわてて頭を下げた。その声は上ずっている。そんな彼の動揺を、神野は春風のような柔和さで受け流した。
「かまへんで。そう畏まらんといて。気にせえへんでええて」
老人の口調には、長年荒波を潜り抜けてきた者特有の、底知れぬ余裕と慈愛が滲んでいる。
彼は細められた瞳で鈴華たちを真っ直ぐに見つめると、奥へと促すように悠然と手を差し伸べた。
「まあ、中でゆっくりしていきなはれや」
広大な庭の静寂を切り裂き、重厚な土間を抜けて一段上がれば、奥へと誘うような長い廊下がどこまでも続いている。
その突き当たり、歳月の重みを宿した古びた襖を静かに滑らせると、
微かな光の中に、懐かしい草の香りと共に凛とした畳の匂いが立ち上がった。
視界の先には、時の流れを止めたかのような、広々とした和室が静かに息づいている。
「広いお屋敷ですね……」
鈴華は好奇心に満ちた瞳で、吸い込まれるように室内の趣を追っていた。
「まあ、ウチは大所帯やさかい古いが、部屋だけは多いんや。今、茶を淹れるさかい……」
神野が重い腰を上げ、台所へと緩慢な歩みを向けようとしたその時である。
廊下の静寂を裂くように、若々しい声が鋭く響き渡った。
「オヤジ! 何やってんすか!」
大阪から来ました六穣会のもんです」
早緑は、静寂に包まれた庭先で背を丸める老人に声をかけた。
竹箒が落ち葉を掻く規則正しい音が、不意に止まる。
老人は急かす風もなく、悠然とした動作で振り返った。
その瞳が早緑を捉えると、深く刻まれた目尻の皺がさらに深くなる。
「ああ、槇村さんとこの。ようおいでくださった」
浮かべたのは、秋の日だまりのような朗らかな笑顔だった。
老人は手際よく紅葉の山をまとめると、傍らの壁に箒を立てかける。
一歩、また一歩。砂利を踏みしめる柔らかな足音を響かせながら、老人はゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。
「これは驚いた。若衆たちが色めき立つような、えらい別嬪さんが来たものだ」
老人の快活な声が、陽だまりの中に弾ける。ふいに視線を向けられた鈴華は、一瞬だけ瞳を揺らしたが、
すぐに柔らかな微笑を湛えて深く頭を下げた。
「至らない身ですが、よろしくお願いいたします」
「総長はどちらにおいででしょうか?」
早緑がそう問いかけると、目の前の老人は喉を鳴らして愉快そうにほほ笑んだ。
「総長、なんて呼ばれたのは……はは、随分と久しぶりやな」
「えっ……!?」
思いも寄らぬ返答に、早緑は言葉を失った。目の前の老人は、深くなった皺をさらに刻ませて、
彼の狼狽ぶりを愉しげに眺めている。
「驚かせたかのう。こんなちっちゃな老いぼれが、あんたの探しておる男だとは思うまい」
その柔和な眼差しの奥に、一瞬だけ鋭い光が宿る。この小柄で穏やかな老人こそが、
〝神野一家”の頂点、総長・神野宗一郎その人であった。
「し、失礼いたしました……っ!」
早緑はあわてて頭を下げた。その声は上ずっている。そんな彼の動揺を、神野は春風のような柔和さで受け流した。
「かまへんで。そう畏まらんといて。気にせえへんでええて」
老人の口調には、長年荒波を潜り抜けてきた者特有の、底知れぬ余裕と慈愛が滲んでいる。
彼は細められた瞳で鈴華たちを真っ直ぐに見つめると、奥へと促すように悠然と手を差し伸べた。
「まあ、中でゆっくりしていきなはれや」
広大な庭の静寂を切り裂き、重厚な土間を抜けて一段上がれば、奥へと誘うような長い廊下がどこまでも続いている。
その突き当たり、歳月の重みを宿した古びた襖を静かに滑らせると、
微かな光の中に、懐かしい草の香りと共に凛とした畳の匂いが立ち上がった。
視界の先には、時の流れを止めたかのような、広々とした和室が静かに息づいている。
「広いお屋敷ですね……」
鈴華は好奇心に満ちた瞳で、吸い込まれるように室内の趣を追っていた。
「まあ、ウチは大所帯やさかい古いが、部屋だけは多いんや。今、茶を淹れるさかい……」
神野が重い腰を上げ、台所へと緩慢な歩みを向けようとしたその時である。
廊下の静寂を裂くように、若々しい声が鋭く響き渡った。
「オヤジ! 何やってんすか!」
