洛陽夜曲

「特別な意図などありません。ただ久々に友人に会いたかったという、
私的な逍遥に過ぎません」

「ほう、、、六穣会は関係ないと?」

腑に落ちぬ表情を隠そうともせず、彼はあからさまな不快を滲ませた。
しかし、それ以上の追究が空隙を埋めることはないと悟ったのか、
やがて重い口を閉ざし、言葉の礫を投げるのを止めた。

「・・・で、君をどこに送ったらええんや?」

答えを拒むかのように、鈴華の視線がわずかに彷徨う。
喉元まで出かかった言葉を一度飲み込み、彼女は覚悟を決めたように、
彼に向かって目的地を口にした。

「西木屋町にあるスナックです」

「西木屋町、、、うちのシマやな。なんて名前の店や?」

「ヨニン」

店の名を告げると、彼は微かに眉根を寄せ、一瞬の逡巡を表情に刻んだ。
だが、その微細な変化を鈴華が拾い上げることはない。
彼の葛藤も沈黙も、彼女にとっては硝子越しに眺める景色のように、
ただ流し去るべき事柄に過ぎなかった。

「、、、、その店、、、無許可の違法営業やったろ?最近ガサ入ったと聞いたで」
※ガサ入れ…警察の摘発

「っ‼」

その一言に、鈴華の肩がわずかに跳ねた。
吸い寄せられるように彼を直視し、乾いた唇を小さく割りかけたが、
喉の奥で何かがつかえたように止まった。
彼女は一度だけ瞬きをすると、視線を落としてその言葉を飲み込んだ。

「そう……ですか」

重い沈黙の底から、ようやく一滴の言葉を拾い上げるように、
鈴華はただ一言、かすかな呟きを湿った空気の中に吐き捨てた。

会話は途絶え、ただエンジンのかすかな震えだけが二人を繋いでいた。
窓の外を流れる古都の闇を切り裂きながら、車は吸い込まれるように木屋町の喧騒へと距離を詰めていった。