洛陽夜曲

(粗相…なんて次元じゃないだろ)

錨は奥歯を噛み締め、心中で毒づいた。
常に冷静沈着で、鉄面皮を崩さぬ孤高の若頭。

京司の内面にこれほどまでの狂乱が眠っていたとは。
配下となって以来、一度として見ることのなかったその“人間”の顔に、
錨は言いようのない戦慄を覚えた。

---宏一と京司の不手際は、
関西の裏社会という静まり返った水面に投じられたつぶてのように、
瞬く間にその波紋を広げていった。

義理事の場を穢した二人の失態は、もはや隠し通せるものではなかった。
事態の収拾に動いたのは、奈良に根を張る箸尾組組長、
通称“箸尾の叔父貴”こと箸尾重則である。

老練な実力者の差配により、下された裁定は峻烈であった。
主催者の面目を潰したことへの多額の詫び金、そして——。

両者に対し、当面の間、日の当たる場所を歩くことを禁じる
「謹慎」の沙汰が言い渡されたのである。


「京司……おのれ、一体何に憑りつかれたんや。
こんな無様な真似、門を叩いてから今日まで一度もなかったはずやぞ」


九条組の奥座敷。組長宇治宮の声は、低く、湿り気を帯びた苛立ちとなって
室内に沈殿していた。
彼は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、深く、重い溜息をつく。
その一息が、部屋の空気をさらに重苦しく塗り替えていった。


「この度は組の看板に泥を塗り、多大なるご迷惑をおかけしました。
……返す言葉もございません」


京司は畳に額を擦りつけるようにして、絞り出すような声で応じた。
弁明の余地など、どこを削っても出てはこない。
身を焦がすような悔恨と、己の未熟さへの嫌悪。
言い訳という名の逃げ道は、自らの失態によって完全に塞がれていた。


「ええか、京司。しばらくの間、京の土を離れることは許さへんぞ。
大人しゅうしとれ」


宇治宮の言葉は、慈悲という名の檻のように京司をその場に縛り付けた。


「……しかと、肝に銘じます」


京司は膝に置いた拳を握り締め、
再度深く、畳に吸い込まれるような礼を尽くした。
重苦しい沈黙を背に、居住まいを正して部屋を去ろうとしたその時、
背後から宇治宮の、剃刀のように鋭い声が飛んだ。


「ええな、京司。これだけは忘れるな。今後、六穣会とだけは…
死んでも事を構えるな。奴らと火種を作ることは、
の九条組の命脈を断つのと同じやと知れ」


退路を断つようなその釘の刺し方に、京司の背中に冷たい戦慄が走った。