洛陽夜曲

黒塗りの最高級セダンが、会場前の静寂を切り裂くように滑り込んできた。
タイヤが砂利を踏みしめるわずかな音さえ、周囲の緊張感を煽る。
車が完全に停止するよりも早く、運転席から弾け飛ぶように降りた若衆が、
最敬礼の姿勢で後部座席のドアに手をかけた。

重厚なドアが開くと同時に、立ち並ぶ組員たちの背筋が一斉に伸びる。
車内から姿を現した京司。仕立ての良い漆黒のスーツに身を包み、
一切の無駄を削ぎ落としたその佇まいは、
動かずとも周囲の空気を支配する圧倒的な圧を放っていた。

京司がゆっくりと地面を踏みしめると、助手席から降りた若頭補佐の錨が、
影のようにその斜め後ろにぴたりと付く。

錨は鋭い視線で周囲を一度掃き、
京司の歩みを邪魔するものが微塵もないことを瞬時に見極めた。


「錨、粗相せんようにせなあかんで」


京司の低く落ち着いた声が、冷たい空気の中に溶け込む。


「承知しております」


錨の短い返辞を受け、京司は表情一つ変えず、正面玄関へと歩を進めた。
並み居る男たちが「お疲れ様です!」と地鳴りのような声を上げる中、
彼はただ視線を一点に据えたまま、突如その動きを止めた。


「……っ!?」


京司の視界が、一点で釘付けになった。
黒塗りの高級車から降りてきた宏一の背後に、影のように付き従う鈴華の姿。

彼女の顔を見て、京司は戦慄した。青黒い内出血が、
彼女の表情を無慈悲に奪っている。
酷く腫れあがったその肌は、見るも無惨な暴虐の痕跡を物語っていた。

顔の半分は、無機質な白い眼帯によって無残に占領されていて、
その清潔すぎる白さが、はみ出した青紫の痣のどす黒さを、
いっそう不気味に、鮮烈に浮かび上がらせている。

鈴華の顔に刻まれた無残な痕跡。その出処が宏一であることに、
疑いの余地などなかった。

視界が爆ぜるような真紅に染まる。


「貴様ぁ、何さらしとんじゃッ!!」


コンクリートの静寂を暴力的に引き裂いて、
野太い咆哮が駐車場内を震わせた。

思考が介入する隙など微塵もない。言葉を吐き出すより早く、
京司の右腕は宏一の喉元へと突き出されていた。

肉が軋む音を立て、京司の拳が宏一の胸倉を無慈悲に掌握する。

駐車場に満ちていたすべてが、ぷつりと糸が切れたように色を失い、
静まり返った。

事態の推移を呑み込めぬ京司の意識は、空白の数秒を彷徨う。
その沈黙の渦中で、宏一だけが異物だった。

驚きという感情を切り捨てたかのようなその表情は、
冷徹なまでに平坦であった。


「あぁ? 誰だてめぇ」


吐き捨てられた言葉。それとほぼ同時に、宏一の指が京司の腕に食い込んだ。

京司を覚えているのか、
それとも初対面の無法者として処理しようとしているのか。
識別を拒絶するような宏一の沈黙が、
駐車場の重苦しい空気をさらに加速させた。