洛陽夜曲

京司の手によって、肌にこびりついた鉄臭い赤が、
無機質な水流とともに排水溝へと吸い込まれていく。

鈴華はその様子を、まるで他人事のようにぼんやりと眺めていた。
拒むことも、身を強張らせることもしない。

彼女はただ、されるがままにその身を委ねていた。
その空虚な佇まいは、持ち主を失い、
関節の緩みきったマリオネットを思わせた。

京司が取り出したハンカチが、彼女の指先を丁寧に、
慈しむように拭っていく。
京司の指の温度。それが遠のいていた彼女の意識を今、
この瞬間へと繋ぎ止めた。


「あ……私……」


溢れ出した戸惑いを、彼は言葉より先にその眼差しで受け止める。


「何も言わんでもええよ。今は、このままでええんや」


その許容は、どんな肯定よりも甘く彼女の胸を打った。

京司のその一言が、限界まで引き絞られていた鈴華の心の糸を、
無残に断ち切った。
喉の奥でせり上がっていた熱い塊が、嗚咽となって溢れ出す。


「うわぁぁぁぁ……っ!」


支えを失った膝が折れ、彼女はその場に泣き崩れた。

京司は何も言わなかった。ただ、子供のように声を上げて泣く彼女を、
壊れ物を扱うような手つきで、しかし力強くその胸の中に引き寄せた。

潤んだ瞳で京司を射抜く鈴華のまなざしは、零れそうな熱を孕んでいた。
その艶やかな唇が、震えながら秘め言を紡ごうとした刹那、
京司の唇がその言葉を封じ込める。

鈴華に拒絶の色はなかった。むしろ、この渇いた心を埋めるぬくもりを、
誰よりも切望していたのは彼女自身であったと、
重なる鼓動の中で悟るのだった。

京司が落とす幾度もの熱い口づけが、縺れ合う吐息を惜しむように、
鈴華の乾ききった魂に微かな潤いを与えていく。

---幾度とない口づけの後…ようやく離れた唇。
京司は愛おしげに彼女の髪を指で梳き、静寂を震わせるような声音で乞うた。


「今夜は、君を一人にはしたくないんや」