洛陽夜曲

鈴華が叩きつける鈍い衝撃音は、次第に粘り気を帯び、
生身の肉を無慈悲に掻き回す湿った音へと成り果てていった。
狂気じみたその律動は、もはや止める術を知らないかのようだった。

---だが、不意に。
張り詰めた弦が弾けたように、世界からすべての音が消失した。
鼓膜に張り付くような静寂が、唐突にそこを支配した。


「もう死んどるわ」


京司の無機質な声が、鈴華の耳元で冷たく弾けた。強引に掴まれた手首から、
逃れようのない現実が伝わってくる。
酸素を求める鈴華の震える肩。
視線を落とせば、泥と血にまみれたマコトの成れの果てが、
物言わぬ肉の塊として、ただそこにある現実を突き付けていた。

今の鈴華に後悔も憐れみもない。
胸を占めるのは、親友という存在を喪った底知れぬ喪失と、
色彩を欠いた虚無の残響のみである。

足元に転がる、かつて「マコト」であった無残な肉塊。
今の鈴華には無機質な物質にしか映らない。

彼女の瞳には、愛憎を越えた果ての、ただ平坦で残酷な「無」が
映るばかりだった。


---どれくらい時間が経ったのか、もう分からなかった。
鈴華の呼吸が平常を取り戻すのを待って、京司は無機質にその腕を引いた。


「残骸は、こっちで片付けとくわ」


感情を排した京司の声が、熱の引いていく倉庫内に低く響く。

彼は鈴華の肩にぽんと手を置いた。


「…いえ、ロクのことは……六穣会の方で片を付けますから」
※ロク…遺体


鈴華が絞り出した拒絶を、京司は容赦なく否定した。


「大阪からわざわざ『掃除屋』を呼び出すことないで。うちに任せたら、
その方が早いわ」


「……」


言葉を失い、立ち尽くす鈴華。その強張った指先を、
京司は有無を言わせぬ所作で掬い上げた。
まだ体温の残る返り血を纏ったその手を引き、彼は冷徹な導き手となって
洗面台へと連れて行く。


「まずはその手を洗い。話はそれからや」


流れ始めた水音が、張り詰めた均衡を無情に洗い流していくようだった。