洛陽夜曲

マコトの口からその言葉がこぼれ落ちた瞬間、鈴華の中で何かが
決定的な音を立てて壊れた。

それは精巧なガラス細工が粉々に砕け散るような、あるいは砂の城が
波にさらわれるような、無機質で救いのない終焉だった。


「お、俺がやったわけじゃねえんだ! 客だよ、あいつの客が無理やりシャブ打ったら、そのまま……。あいつ、急に動かなくなってさ」


マコトは必死に言葉を重ねていたが、その声はもう、鈴華の鼓膜を震わせるだけの無意味な振動に過ぎなかった。

意味を成さないノイズが、濁った空気の中に溶けていった。


「遺体はどないしたんや?」


割り込んだ京司の言葉に、マコトは視線を彷徨わせた。


「……大阪のヤクザに、処理させた」


言い終えるか否か。鈴華の身体が動いていた。
最短距離を走った拳がマコトの顔面を深々と捉える。

弾かれた首、飛び散る汗。沈黙が支配していた部屋に、ただ一つ、
断罪の衝撃音だけが虚しく反響した。

鈴華の腕は折れてしまいそうなほど細い。だが、その細腕から繰り出される拳は、物理的な質量を超えた、

どす黒い重力を孕んでマコトの顎を、腹を、執拗にえぐった。

一撃ごとに、骨のきしむ鈍い音が部屋の静寂を破る。それは音楽ですらない、
ただの無機質な破壊の律動だ。

彼女の瞳からは、すでに一切の色が、そして光が失われていた。

かつてそこに宿っていたはずの、わずかな温もりも情熱も、
この空間には存在しない。

ただ、冷徹な虚無だけが、その奥底で凍りついている。

マコトを見下ろすその瞳は、もはや人間のものではなかった。
感情というプログラムを消去された、精巧で美しい人形。

彼女はただ、無表情に、機械的に、そして驚くべき正確さで、
マコトという存在をこの世から抹消するかのように、拳を打ち付け続けた。

--京司は喧騒から数歩退いた場所に転がる、朽ち果てた木箱を椅子代わりにした。

指先に挟んだ二本目の煙草に火を灯すと、
紫煙がゆるやかに死の匂いをなぞっていく。

眼下で繰り広げられるのは、阿鼻叫喚の惨劇。

京司は観客席から動こうとはしない。その凍てついた心に唯一灯ったのは、
共感でも嫌悪でもなく、純粋なまでの「感嘆」だった。

返り血を厭わず、無表情に断罪を繰り返す鈴華の姿は、この世のものとは思えぬほどに、凄絶で、そして美しかった。