洛陽夜曲

マコトの捜索を錨に丸投げして、一週間。停滞した時間だけが、
積み重なっていた。止まっていた時計の針を動かすように、
錨からの連絡が舞い込んだ。

 
「カシラ、長くお待たせしてしまいました。マコトの身柄、
ようやく押さえました」

「ご苦労やったな。お前…今どこにおるんや?」

「大阪です。今から京都に戻ります」

「サランは一緒におるんか?」

「いえ。女はいませんでした」


錨の言葉を耳にした瞬間、京司の胸中には薄暗い影が落ちた。
期待が静かに崩れ去り、その破片が心の底へ沈殿していくのを
彼は感じていた。
 

「ヤキ入れるのんは構わへんが殺さへんようにな」


錨に短く、釘を刺すような忠告だけを残して、京司は通話を断ち切った。
指先の煙草が灰へと形を変え、最後の一筋の煙が
夜に溶けていくのを待ってから、
彼は重い腰を上げるようにして鈴華へと連絡を入れた。


---窓の向こう、薄群青色に沈みゆく京都の街並みを、鈴華はただ
黙って見つめていた。
眼下に広がる無数の灯火は、まるで誰かがぶちまけた宝石の屑のように
無機質に瞬いている。その光の海のどこかに、今もなお彷徨う
友の影があるはずだった。
 

「どこにいるの……」


小さく零した独白は、冷え切った室内の空気に吸い込まれ、
誰に届くこともなく消えていく。
鈴華の手指は、無意識のうちにスマートフォンの冷たい機体を
強く握りしめていた。けれども、着信を告げる振動も、
安否を知らせる短い文面も、沈黙に塗りつぶされたままだった。

点滅する信号機の赤が、窓硝子越しに鈴華の頬を不吉に染める。
祈りにも似た焦燥が、彼女の静かな輪郭を刻一刻と削り取っていく。
その瞳には、煌々と輝く観光都市の華やぎなど微塵も映ってはいなかった。

ただ、一筋の光さえ見えない「不安」という名の深淵だけが、
彼女を楔のように縛りつけていた。

鈴華を包んでいた重苦しい静寂…それを切り裂いたのは、
京司からの不意な報せだった。