洛陽夜曲

しとやかな衣擦れの音と共に運ばれてくるのは、
涼やかな切子に映える先付。透き通る出汁に浸る車海老の甘みが、
舌を優しく撫でる。

息を呑む間もなく差し出された漆黒の椀。蓋を撥ねた瞬間に溢れ出したのは、
削りたての鰹が放つ、黄金色の薫り。熱を帯びた湯気の中で、
澄み渡るような出汁の滋味が、深い余韻となって心に染み渡っていく。

どれも鈴華が今までに目にしたこと、無論口にしたこともないような
代物ばかりだ。
それらを前にして彼女が抱いたのは、好奇心というよりも、
自分の世界の狭さを突きつけられたような、静かな戸惑いであった。

続いて、皿の絵柄が透けるほど薄く引かれた鯛。 


「 まずはそのままで、何もつけんと食べてみぃ」


京司が促す。恐る恐る口にすると、淡い甘みの後に、
噛むほどに増す力強い旨味に驚きを隠せない様子の鈴華であった。

鈴華の横顔に浮かぶ満足げな色を、京司は酒の肴にするかのように愛でた。
冷酒が喉を撫でるのと同時に、胸の奥でふつふつと湧き上がるのは、
支配にも似た深い安堵。彼女を世界の喧騒から遮断し、
その柔らかな表情を独占したいという切実な保護欲が、
彼の瞳を熱く湿らせていた。

運ばれてきたのは、秋の深まりを感じさせる落ち鮎の塩焼きだった。
その錆色の肌に、もうすぐ終わる季節の気配を読み取る。
「これが今年の最後の鮎やな」京司は誰にともなく呟き、
一気に杯を空にした。喉を通る酒の熱さと、落ち鮎のわずかな苦みが、
胸に深く残った出来事を静かに締めくくってくれた。

京司は、ふと鈴華の指先に目を奪われた。
箸を動かすその仕草は、まるで指先が優雅に踊っているかのように滑らかで、
一切の無駄がない。
洗練された品格が、卓上の空気を清らかに塗り替えていくようだった。


「箸の使い方、上手やなぁ」


「日本に来てからテーブルマナーを叩き込まれました。
私が無作法だと六穣会が恥をかくのだそうです」

鈴華の言葉に、京司の唇から微かな苦笑がこぼれた。

「一体誰の吹き込みや?槇村会長か?」


「お兄いです」