洛陽夜曲

彼はなおも言葉を紡ごうとしたが、部下の無粋な声がその糸を断ち切った。

儀礼的な礼を老婆に投げ、男が戻ってきた。戻ってくるその面構えには、
明らかな苦渋が刻まれていた。


「どうやった?何かわかったか?」


問いを投げかけられた男は、老いた女から預かった言葉を一つ一つ手繰り寄せ始めた。

しかし、その唇からこぼれる一節一節が、けっして福音ではないことを、
彼の硬い表情が静かに物語っていた。


「そのサランって娘…たしかに先月までは先斗町のスナックで働いとったらしいんですけど…良うない男に入れ込んだようで…
風俗に流れていったらしいです」


険しい眉間の谷間に苦い報告を受け止めながらも、彼の思考の重心はすでに
別の場所へと移っていた。
堕ちていった女の末路など、今の彼にとっては対岸の火事にも満たない。

ただ隣に立つ鈴華の気配が、その一言にどう震え、絶望していくのか。その危うい均衡にこそ、彼は全神経を研ぎ澄ませていた。


「彼女の働く店はわかりますか?」


「店の名前までは知らんようやけど…借金もあったみたいやし、衣笠開キ町に住んでる遠い親戚の知人を頼りに、
そこに移り住んだらしいですわ」


「衣笠開キ町?」


京の入り組んだ地は彼女の手に余り、不意に告げられた地名も、
どこの空の下を指すものか見当すらつかなかった。


「ああ…あの砂防ダム内の集落やな」

彼はしばし沈黙の深淵に身を沈めていたが、
やがて、時の砂に埋もれていた記憶の断片をひとつひとつ丁寧に拾い上げた。

「…ダム内?」


その集落は、地図の上では「空白」だった。切り立った急峻な山々に抱かれた、その砂防ダムの底。

土砂を食い止めるための無機質なコンクリートの構造物が鎮座するはずの場所に、

ひしめき合うような違法建築の家々の影があった。

戦後の混乱期、行き場を失った人々が流れ着いた吹き溜まり。

不法占拠という乾いた行政用語では括りきれない、生々しい生活の匂いがそこには漂っていた。