冷遇令嬢、最恐軍医に嫁ぎました~大正深愛綴り~


「このお屋敷に、日本酒以外にお酒はどんなものがありますか?」
「はい? お酒で……ございますか?」
「えぇ」
「……それでしたら、焼酎とビールがございますが……」
「では、ビールをお猪口二杯分ほどいただけますか?」
「ビールでございますか?」
「割り下に入れておけば、お肉が柔らかくなりますし、仄かに麦の香りとコクが出るんです」
「まぁ!」

 ノブの顔から笑顔が弾けた。

「それは存じませんでした! 書き留めてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです」
「ありがとうございます」

 ノブは献立用の帳簿に、紫乃から教わったことを毎日書き記しているのだ。

「私たちのような使用人にも気軽にお声がけして下さるし、こうして丁寧にお教え下さるし……。若旦那様は素敵な奥様を迎えられましたよね~」
「本当に! 不愛想なところもありますけど、優しいお方ですから」

 女中たちの会話で、紫乃は再び今朝のことを思い出し、口元を緩ませた。

(あの方のために、もっとお役に立てることをしなければ……)

 紫乃は胸に手を当てた。それは誰にも気づかれない、小さな決意の証だった。