冷遇令嬢、最恐軍医に嫁ぎました~大正深愛綴り~

 
 とある日。朝稽古を終えた勇心は、湯あみをするために湯殿へと向かっていた。
 厨房から焼き魚の匂いが漂ってきて、思わず頬を緩ませた、その時。
 ふとガラス戸越しに、庭先で洗濯物を干している紫乃が目に入る。

 白磁のような肌に、朝の光が淡く降り注いでいる。
 気配を殺し、縁側から紫乃に近づくと、手を目いっぱい伸ばしながら物干し竿を水拭きする紫乃から鼻歌が漏れた。

「ふ~んっん~、ふふふっん~ん~っ……」

 無邪気で愛らしい旋律の鼻歌に、勇心は目元を綻ばせていく。
 小柄な紫乃が洗濯かごに手を伸ばし、敷布を取り出すと、一生懸命背伸びをして竿にかけようとしている。
 けれど、布が上手く広がらず、四苦八苦する。勇心は紫乃の背後にそっと近づき、無言のまま、彼女の手元に手を伸ばした。

「っ……!」

 突然背後から伸びてきた大きな手に、紫乃は驚いてよろめいた。だが、倒れるより早く、勇心の腕が彼女の腰をしっかりと支えていた。