◇ ◇ ◇ ◇
「ここか」
「はい」
数日前。王子と二人で乗り込んだ馬車を、店の手前で停めさせた。
『サリーズ・キッチン』と大きく書かれた看板が水色の壁に取り付けられている。
「想像通り、ちっぽけな店だ。犬小屋にもならん」
「あ」
からん、とドアベルの音と共に出てきたのはまさに彼女だった。髪を後ろで結わえ、外の履き掃除をしている。
ふ、と隣で王子が小さく笑う。
「名前は調べたか?」
「ハル、というようです。ハル・ユミキ」
「やはり異人か……」
王子はそれきり口を噤んだ。
彼女は店の窓拭きを始めている。こちらに気が付く様子も無い。
「相変わらず、世の中にまるで興味の無さそうな顔で働いているな。城に集うハイエナのような女たちとは大違いだ。ますます面白い」
彼女から目を離さぬまま、愉快そうに言う。
「ま、異人を妻に迎えるというのも悪くはあるまい。過去に例が無いなら尚更だ。踏襲ほどつまらんものは無いからな」
── まさか、本気だろうか?
王子の言う事もわからんでもないが、いくら何でも異国の血を王族に混ぜる訳にはいかないだろう。王子がその気になったところで国王陛下たちがお許しになる筈がない。
しかし他人の言葉に耳を貸すような男でない事は知っている。この場ではとりあえず黙るしかなかった。
「そういえば。お前と同じ髪の色だな?マナト」
彼女が体を動かす度に
黒髪が、ふわっと風に乗る。
「……ただの偶然でしょう」
「ここか」
「はい」
数日前。王子と二人で乗り込んだ馬車を、店の手前で停めさせた。
『サリーズ・キッチン』と大きく書かれた看板が水色の壁に取り付けられている。
「想像通り、ちっぽけな店だ。犬小屋にもならん」
「あ」
からん、とドアベルの音と共に出てきたのはまさに彼女だった。髪を後ろで結わえ、外の履き掃除をしている。
ふ、と隣で王子が小さく笑う。
「名前は調べたか?」
「ハル、というようです。ハル・ユミキ」
「やはり異人か……」
王子はそれきり口を噤んだ。
彼女は店の窓拭きを始めている。こちらに気が付く様子も無い。
「相変わらず、世の中にまるで興味の無さそうな顔で働いているな。城に集うハイエナのような女たちとは大違いだ。ますます面白い」
彼女から目を離さぬまま、愉快そうに言う。
「ま、異人を妻に迎えるというのも悪くはあるまい。過去に例が無いなら尚更だ。踏襲ほどつまらんものは無いからな」
── まさか、本気だろうか?
王子の言う事もわからんでもないが、いくら何でも異国の血を王族に混ぜる訳にはいかないだろう。王子がその気になったところで国王陛下たちがお許しになる筈がない。
しかし他人の言葉に耳を貸すような男でない事は知っている。この場ではとりあえず黙るしかなかった。
「そういえば。お前と同じ髪の色だな?マナト」
彼女が体を動かす度に
黒髪が、ふわっと風に乗る。
「……ただの偶然でしょう」
