きみが春なら

「待て」
立ち去ろうとした女に声をかけた。

「お前は新人の使用人か?」
「いいえ。パーティー料理を注文して頂いたので、容器の回収に」

あぁ、と思った。昨日出された料理を任せた店の者らしい。
「どんな物が出ていたか記憶に無いな。口を付けなかった」
「そうですか」
普段なら絶対にそんな真似はしないが、その時は何となく話を続けてみた。若い女のくせに俺を見ても媚びたり、慌てたりしない反応が新鮮だったからかもしれない。

「では、ぜひ今度召し上がってみて下さい。また配達に伺いますので」
小さな鞄から出したチラシを手渡され、唖然とした。

「は?」
「新メニューも開発中なんです。宜しければ」
髪の色と同じ黒い瞳に俺を映し、にこっと微笑む。

「ふ……くく、」
そのうち笑いがこみ上げてきた。

「はははは!貴様。俺が誰かわからんのか?」
「え?」
「道理でその態度な訳だ。よほどの世間知らずらしいな」

きょとんとした顔がますます可笑しく、腹を抱えてしまう。
「こんなに笑ったのは久しぶりだ。まぁ貰っておいてやる」
やがて女が去った後。

「マナト!」

城の正門にまわり家臣の一人を呼びつける。駆けてきたその胸に、チラシを押しつけた。

「この店の場所。調べておけ」