きみが春なら

「── 辛くないか?」
思わず口に出していた。

「え?」
「仕事……いや。仕事じゃなくても」

本当はずっと気になっていたのに。
慌ただしい日々に流され、聞くのが後回しになっていた。

「俺が無理矢理連れてきたようなものなのに。なかなか一緒にもいてやれなくてごめん」
「……」
「教会にいた頃より、今の方が心細いんじゃないかって。そう思って」

淋しい、とか。もっと側にいてほしい、とか。
ハルは決して言わない。
『全部一人で抱え込んでしまう』って。彼女を育てた女性もそう言っていた。

今の俺じゃ。こんな俺じゃ。
ちっとも支えになんてなれていない気がした。

「毎朝、起きたらあなたが隣で寝てるのよ。これ以上の幸せなんて無いわ」

砂漠に降る雨のように。彼女の言葉が染みていく。

「無理矢理連れてこられたなんて思ってない。私が一緒に来たかっただけ」
「……ハル」
「仕事も、忙しいけど楽しいわ。オーナーのご夫婦もとっても優しいし。誰かに喜んでもらえるのは嬉しい」

── 俺は、
俺は
彼女のこういう優しさと強さが本当に好きだ。

「……花びら。付いてる」
黒い髪に指を通し、そのまま口付けた。見開かれる丸い瞳。

「ず、るい。急に」
慌てて俯く顔を見て吹き出した。

「帰ろうか。」


愛しさで胸がむせかえりそうな夜。
真っ直ぐ歩く力をくれるのは
いつだって君だった。