きみが春なら

◇ ◇ ◇ ◇

「酒はそんなもんでいいよ。今日は早く店を閉めるから」
市場でいつもの半量くらいの酒瓶を抱えたところで、ケビーにそう言われた。

「ほら。王子の結婚発表がもうすぐだろ?今夜は若い女たちがこぞって城に集まるのさ。着飾って王子に自分を売り込むパーティーがあるんだ」
「大変だな」

思わず素直な感想を述べると、ケビーは大きな声で笑った。

「酒場は全部早仕舞いしちまうのさ。こんな日に、どうせ客なんて来ないから」
「へぇ。わかった」

瓶の数を数え直しながら、今日なら連れて行けるかも、と淡く期待を抱いた。



その夜の客入りは予想より更に酷いもので。結局ほとんど働かないうちに店を閉める事になり、そのまま歩いてハルの職場に向かった。

水色に塗られた外壁とポップな看板は遠目からでも目立つ。ちょうど誰かが店から出てくるのが見え足を止めた。
白いシャツにベージュのスカート。デニム生地のジャケットに、見慣れたトートバッグ。
黒髪を後ろで纏めた彼女が扉を閉める。

「ハル」
「あら?」
驚く君に歩み寄った。

「城でパーティーがあるとかで。全然客が来ないからもう上がりだ」
「じゃあ、今日は一緒に夕飯が食べられるのね」

頷いて見せると、彼女が笑顔になった。会話らしい会話を交わすのはいつぶりなのか、すぐに思い出せない。
「マーケットに寄ってもいい?」
「もちろん」
まだ人で賑わう通りを、並んで歩き出す。