きみが春なら

眠っている君を起こさないように。細心の注意を払いながらドアを開ける事にももう慣れた。
部屋は静まりかえっている。
服を着替えて水を飲み、ベッドで眠る君の隣に滑り込む。

「ん……」

俺の気配に気付いたハルが、寝返りを打ちこちらを向いた。
まだ目を開ける事は出来ないらしく頬に触れた指先がきゅ、っと握られる。

「おかえ……なさ」
むにゃむにゃ呟いた君はまた眠りにおちていった。

「ただいま。」

抱き寄せ額に口付けると、心も解けていくのを感じた。
彼女の体温を分けてもらいながら目を閉じるこの瞬間が、一日で一番好きだった。


明け方に眠り、目を覚ますのはいつも昼時だ。
テーブルの上にはとっくに仕事に出たハルが作ってくれた食事が並んでいる。それを食べた後、夜の営業に向けた食材や酒の調達の為ケビーと一緒に市場をまわり、そのまま店に出る。そんな毎日だった。

ハルは町中にあるレストランのキッチンで働いている。
二人で小さな家を借りてはいたが普通に朝仕事に出かけ、夜帰ってくる彼女とは完全にすれ違いの生活だ。お互いに寝顔しか見られない日々が続いていた。