きみが春なら

ジャズが静かに流れる、薄暗い店内で。慎重にシェイカーを傾ける。

「ホワイト・ルシアン」
店長のケビーの前にとん、とグラスを置いた。

「入れる前に振ったか?生クリーム」
「振った。」

作りたてのカクテルの出来を、彼はまず目で確かめる。テストの時は毎回そうだった。
やがて一口喉に流し込むと、

「美味い。合格」

その言葉を聞き胸を撫で下ろす。
「本当に筋が良いな。スカウトして正解だった」
「どうも」
「これなら明日からすぐに客に出せるよ」
グラスに残ったカクテルを一気に飲み干し、ケビーは笑う。

ハルと二人でこの国に来て、もう半年が過ぎようとしていた。
ぎりぎりロシア語が通じるが違う国の言語を使う奴も多い、それでも割と栄えた国だ。ひょんな事から知り合ったケビーのバーを手伝うようになったのは、つい最近だった。
「それ洗ったらあがっていいよ。お疲れさん」


店を閉めるのは午前三時。それから片付けを済ませシャワーを借り、帰路につくのはもう空が白み始める頃だ。

「お兄さん?」

裏口から出た途端に声をかけられ振り返る。閉店まで店で呑んでいた女の一人が、覚束ない足どりで近づいてきた。
「まだいたのか。呑みすぎだぞ」
「そうね。一緒にいてくれない?酔いが醒めるまで」
全身で絡むように抱きつかれる。誘われているのはすぐにわかった。
「……」
女の腰を抱き鼻をつつくと、とろんとした瞳が期待で揺れる。

「い、や、だ。」

すかさず停めたタクシーに押し込み、ため息を吐く。
早く帰りたい、とだけぼんやり思った。