きみが春なら

◇ ◇ ◇ ◇

列車は、もう随分長い事走っていた。
俺が、彼女が育った街はあっという間に遠ざかり、窓の外を流れる景色にいろんな思いが重なる。

── 早く大人になりたい、って
子どもの頃からそればかり考えていた。
街を出て、生き方を自分で選びたかった。
悪事に手を染めずに暮らしたかった。

そんな事
君に出会うまで、忘れていた。


「……」
 

心地良い揺れに身を任せるうちに、夢をみた。

真っ暗闇の中。小さな女の子が、俺に背を向け泣いていた。
大声で、わんわん泣いていた。
お父さん、お父さん、と繰り返しながら。

……あぁ、
この子は きっと。


「ハル。おいで?」


すぐにわかった。子どもの頃の彼女なんて、写真すら見た事ないのに。
おそるおそるこちらを振り返る。丸い瞳が今と同じだ。

腕を広げた俺の胸に
泣きながら、真っ直ぐ飛び込んでくる。

「よく頑張ったな。もう大丈夫だ」

小さな体を抱きしめ、黒髪を撫でる。

「ずっと探してた。お前のこと」

大丈夫。一人じゃないから。
俺が守るから。
もう大丈夫。


幼い彼女は
やがて、にっこり微笑んだ。


◇ ◇ ◇ ◇

「ん」

重みを感じ目を覚ますと、ハルが俺の肩に頭を預けて眠っていた。
さっき夢にみた少女と、目の前にいる大人の彼女がリンクする。

「……そんな無防備だから。俺なんかに捕まるんだよ」

こっそり呟き、握った左手。薬指には俺が作った指輪が光っている。

『ハルが甘えられる場所が出来たなら、良かった。』

夢の中で今度はガキの頃の自分に会えたら。また大丈夫、と言ってやりたいと思った。
あの頃の俺と彼女が、一番欲しい言葉だとわかっているから。

「間もなく、終着駅に到着します……」

車内にアナウンスが流れ、ハルが小さく身じろいだ。
列車のスピードが緩やかに落ちていく。


── この日に辿り着くために
無駄だった事は、きっとひとつも無い。


やっと手に入れた、って
思ってもいいよな?


決して揺るがないものを
たった一つだけ。