きみが春なら

◇ ◇ ◇ ◇

彼女がふっ、と目を開く。
「起きてたの?」
「寝顔見てた」
わざと照れさせるような言い方をしたが、ハルは薄く微笑んだだけだった。まだ意識は朧気らしい。

「よかった。夢じゃなくて」
「いるよ、ちゃんと。安心して眠れ」
腕の中に抱き直す。

「ねぇ。あなたの時計ね」
「ん?」
「直しても直しても、すぐに遅れちゃうんだけど。でも一度も止まった事は無かったの」

テーブルに置かれた腕時計に視線を移す。久しぶりに目にしたそれは、彼女の腕のサイズに直されていた。

「だから、あなたもきっと……大丈夫なような気がしてて」

とろとろと紡がれる言葉が、やがて寝息に変わる。

「……そうか」

良かった、と思った。
こんな時計ひとつでも支えになっていたと知り、心にあたたかい火が灯る。

『君は幸せ者だ。』
本当だよ、ダニー。

「ありがとな。ハル」
 
額に触れるだけのキスを落とし、俺も目を閉じた。