── このまま壊してしまうかもしれない。
一人暮らしになっていた彼女の部屋で、そんな事を思う。
長く離れていた分、求めても求めても気持ちが全然追いついてこない。
柔らかな笑顔が、声が、体が。変わらずそこにある奇跡に震えた。
耳まで赤く染めたハルは恥ずかしそうに首を振る。
「大丈夫だから。……全部、見せて」
手を握り、首筋を唇でなぞると彼女の体から力が抜けた。
甘い匂いのするベッドが余計に俺を狂わせる。
艶っぽい声で名を呼ばれ、また熱が高まって。
ギリギリ保った理性の端っこに何とかしがみついている。
「愛してる」
そう伝える度に目の端に浮かぶ涙。
泣き笑いの表情が愛しくて仕方なかった。
「……私、も」
夜明けまで
何度確かめあったろう。
全てを丸ごと、愛したかった。
カーテン越しにうっすら透ける陽の光。
電池が切れたように眠ってしまったハルの髪を撫でながら、昨日の出来事を思い返していた。
◇ ◇ ◇ ◇
「バン!」
銃口に見立てた人差し指を背中に突きつけると、ダニーは前を向いたまま笑った。
久しぶりに戻ったペテルブルクの街。
当然ながら以前同居していた隠れ家は空っぽで。うろついていそうな場所を探すとその背中は案外簡単に見つかった。
「で?面白い土産話でも持ってきたのか」
「ああ、嫌になるほどあるよ。だけどその前に聞きたい事があって」
「あのホットドッグ屋なら年明けに店舗を構えたぞ。グリーンストリートの辺りだ」
「え?」
予想もしない返答に、間の抜けた声が出た。
ダニーが振り返る。この一年半でまた老けたかと思っていたが、そうでもなかった。
「何だ?聞きたい事ってそれじゃないのか」
「いや……そう、だけど。何でわかった?」
俺の表情を見て大声で笑う。
やがてふと訪れた沈黙の後。
「まだ働いてるぞ、あの子。お前の時計を着けながら」
ダニーは目を細めそう言った。
「一度、良かれと思って彼女に君の話をしたんだが。わんわん泣かせてしまったよ」
「……」
「いつ戻るともわからない奴を待ち続けるなんて、なかなか出来る事じゃない。あんなに想われて、君は幸せ者だ」
やばい、と思った時にはもう目頭が熱くなっていた。
「いつの間に口説いてた?全く油断も隙もないな」
「……うるせ、」
慌てて後ろを向き洟をすすった。
信じてなかった訳じゃない。
ただ、顔さえ見られない日々の中でどうしても不安は募る。
期限の無い約束で縛り付けて。
待ちくたびれた彼女が、もし他の男を選んでも
責める権利なんて無いとわかってた。
二度と会えない可能性だって
きっと多分にあったけど
怖くて、気付かないふりしてた。
それなのに。本当に待っててくれたのか?
「……とっくに限界のはずだ。早く迎えに行ってやれ」
背中にいつになく優しい声がかけられた。
一人暮らしになっていた彼女の部屋で、そんな事を思う。
長く離れていた分、求めても求めても気持ちが全然追いついてこない。
柔らかな笑顔が、声が、体が。変わらずそこにある奇跡に震えた。
耳まで赤く染めたハルは恥ずかしそうに首を振る。
「大丈夫だから。……全部、見せて」
手を握り、首筋を唇でなぞると彼女の体から力が抜けた。
甘い匂いのするベッドが余計に俺を狂わせる。
艶っぽい声で名を呼ばれ、また熱が高まって。
ギリギリ保った理性の端っこに何とかしがみついている。
「愛してる」
そう伝える度に目の端に浮かぶ涙。
泣き笑いの表情が愛しくて仕方なかった。
「……私、も」
夜明けまで
何度確かめあったろう。
全てを丸ごと、愛したかった。
カーテン越しにうっすら透ける陽の光。
電池が切れたように眠ってしまったハルの髪を撫でながら、昨日の出来事を思い返していた。
◇ ◇ ◇ ◇
「バン!」
銃口に見立てた人差し指を背中に突きつけると、ダニーは前を向いたまま笑った。
久しぶりに戻ったペテルブルクの街。
当然ながら以前同居していた隠れ家は空っぽで。うろついていそうな場所を探すとその背中は案外簡単に見つかった。
「で?面白い土産話でも持ってきたのか」
「ああ、嫌になるほどあるよ。だけどその前に聞きたい事があって」
「あのホットドッグ屋なら年明けに店舗を構えたぞ。グリーンストリートの辺りだ」
「え?」
予想もしない返答に、間の抜けた声が出た。
ダニーが振り返る。この一年半でまた老けたかと思っていたが、そうでもなかった。
「何だ?聞きたい事ってそれじゃないのか」
「いや……そう、だけど。何でわかった?」
俺の表情を見て大声で笑う。
やがてふと訪れた沈黙の後。
「まだ働いてるぞ、あの子。お前の時計を着けながら」
ダニーは目を細めそう言った。
「一度、良かれと思って彼女に君の話をしたんだが。わんわん泣かせてしまったよ」
「……」
「いつ戻るともわからない奴を待ち続けるなんて、なかなか出来る事じゃない。あんなに想われて、君は幸せ者だ」
やばい、と思った時にはもう目頭が熱くなっていた。
「いつの間に口説いてた?全く油断も隙もないな」
「……うるせ、」
慌てて後ろを向き洟をすすった。
信じてなかった訳じゃない。
ただ、顔さえ見られない日々の中でどうしても不安は募る。
期限の無い約束で縛り付けて。
待ちくたびれた彼女が、もし他の男を選んでも
責める権利なんて無いとわかってた。
二度と会えない可能性だって
きっと多分にあったけど
怖くて、気付かないふりしてた。
それなのに。本当に待っててくれたのか?
「……とっくに限界のはずだ。早く迎えに行ってやれ」
背中にいつになく優しい声がかけられた。
