きみが春なら

仕事からの帰り道。お店を出てすぐにノートを開く。

「パイナップルソース3。ケチャップ1……」

教わったばかりのレシピを頭の中で復習しながら歩いた。
半年ほど前、職場がワゴンから路面店に変わった。ジルが店長に就任し、新しく従業員も増えた。
売れ行きが好調なのは嬉しいけれど、毎日てんてこ舞いの忙しさ。この日も遅くまで近々店頭に出す夏向けの商品を皆で開発していた。

「たまねぎは細切り。レタスは……」

仕事で頭がいっぱいだった。
だから
全く予想していなかったの。

「ひゃ、」
街灯の灯りを頼りにノートを読みつつ歩くうち、真正面から誰かにぶつかってしまった。ばさっと地面にノートが落ちる。
謝ろうとして体が全く痛くない事に気付く。


「言ったんだけどな?裏道を一人で歩くなって。」


その人は、私を抱きとめる手に力を込めた。
── どくん、と心臓が跳ねる。