きみが春なら

「あれか?」「そうだ」
午後10時過ぎ。
人通りもまばらになってきた街角に白いワゴンが停まっている。店の明かりが微かに路地裏まで届いてくる。
俺は仲間たち三人と共に様子を窺っていた。この街じゃ移動販売は珍しくないが、ホットドッグ屋の存在は知らなかった。
しばらくして客が途切れると、ワゴン内の明かりがふっと消えた。

「やっと店仕舞いか」
「女が一人、出てくるはずだ」
「よし。お前らもしっかり見ておけよ」

帽子を被り直し、ますます姿勢を低くする。
いざ計画を実行する日の為にも相手の観察は基本中の基本だ。間もなくしてワゴンの後ろ側の扉が開いた。

「…………え?」

一瞬、思考が停止する。
中から出てきたのはハルだった。

「何だ、あんな細っこい女じゃないか。しかも結構可愛いぞ」
「本当か?見えねぇよ、暗すぎて」
「どうだ?イーヴァン。楽勝だろ?」
「……ダメだ」

手際よく看板を畳む彼女から目を離せぬまま、気付けばそう呟いていた。

「この店は無しだ」
「な、」

話を持ってきた男が驚愕の表情を浮かべ俺に詰め寄った。

「何でだよ!?絶対成功するって!」
「そうだよ、勿体ない」
「俺が無しって言ったら無しなんだ!帰るぞ」

口々に文句を垂れる仲間たちの背中を無理矢理奥へ押しやる。
最後に一度だけ振り返ると、何も知らない彼女が店の片付けを続けているのが見えた。

……本当に修道女じゃなかったんだな。

「ったく。だから一人で歩くなって言ったのに」
「イーヴァンー?」

名前を呼ばれ、慌てて駆けだした。