きみが春なら

◇ ◇ ◇ ◇

「……大切にしてるよな。あの時計」
かじかんだ手をポケットに突っ込み帰路につく。

ハルを雇ってからというもの、男の客が急激に増えた。わざわざ彼女が店頭に立つ時間を狙ってやってくる奴も大勢いる。
あからさまにアプローチしてくる輩もいたが、おっとりした性格のハルはなかなかそれに気付けない。
だから、しつこい奴からは何となく彼女を遠ざけたりしていた。おせっかいだとわかってても、俺自身がそうしたかった。

「んー……」
頭をがしがしと掻く。

これ以上自分の気持ちを見つめたら
『ただの同僚』でいられなくなる気がした。
あんな風に無防備に笑ってくれなくなる気がした。

だって、脈無しもいいところだ。

こんなに毎日一緒にいるのに
時計ひとつ置いて、いなくなる奴の方がいいんだろ?

たまにお前がこっそり泣いてるのも知ってるよ。

でも、ダメなんだろ。
俺じゃ
ダメなんだよな。

「残酷な男もいるもんだよなぁ……」

いつかかっ攫われるのがわかってて
それでも守ってやりたいなんて
自分のプライドの無さに笑えてくる。
情けないけど。悔しいけど。
もう少しだけ、騎士気取りでいたかった。


例え、それが
他の男の為になるんだとしても。