きみが春なら

◇ ◇ ◇ ◇

「ジル。お願いがあるんだけど」
ハルがそう声をかけてきたのは、もう一年前になる。
「んー?珍しいな」
「あのね。これ」
彼女は、腕時計を俺に差し出した。所々傷が入った、無骨な作りのメタル時計だ。
「これのベルト、短く調整して欲しいの……出来る?」
受け取って眺める。

「何だコレ。お前にはでかすぎるよ?」
「うん。そうなんだけど。でも」
でも、とハルは必死に言葉を続けようとする。

ハルは自分の事をそんなに喋る方じゃないから、詳しい事情はわからない。
それでもこの男物の時計がどんな意味をもつのかは何となく想像がついた。

「どうしても、か?」
俺を見つめる彼女が、こくんと頷いた。
「……簡単だよ。ドライバー一本だ。今やってやるよ」
ぽんと頭を撫でると、嬉しそうに笑う。

「良かった。ありがとう」


ただの職場の同僚だと思ってた。
妹みたいなモンだって。

だけど。
彼女にちらつく男の影に、その瞬間、確かに動揺してしまった。