その時、バタバタと走ってくる音がした。
「要さん!」
聞き慣れた声が夜の庭に響く。
振り向くと、こちらへ駆けてくる二人の姿が見えた。
花音と、高野だ。
「今、外で騒ぎがあるって――……」
花音の言葉が途中で止まる。
視線の先にいるのは志乃。
そして……血のついた俺の拳。
一瞬、静かな空気が流れた。
志乃が小さくため息をつく。
「ちょっとしたトラブルよ。要が助けてくれただけ」
その言葉に、花音の瞳がわずかに揺れた。
「……そう、なんですね」
高野が慌てた様子で言う。
「要様!早くこちらで手当てを!」
「俺は怪我していない。それより志乃さんをご両親のところへ案内してやってくれ」
「……かしこまりました」
すると志乃が通り際、小さな声で言った。
「花音さんには詳しい事を話さない方がいいと思うわ」
志乃は頭がいい女性だ。
さっきのやりとりですぐに察知したんだろう。
俺が頷くと、志乃は頭を下げて高野と去って行った。
花音を見ると、心配そうにこっちを見ている。
「あの……本当にお怪我はないのでしょうか……?」
「……ない。帰るぞ」
それだけ言って、俺もその場を後にした。
後ろは振り返らない。
きっと迅が花音を宥めているはずだ。



