恋するだけでは、終われない / お別れしたって、忘れない


玲香(れいか)のスカート、由衣(ゆい)並みに短めだったんだ・ね」
「ほんとだ、いまと全然違う!」
「ほらここ。月子(つきこ)ちゃんが、初対面ですでに喧嘩腰ですよね」
千雪(ちゆき)、失礼なこといわないで」

 いま、わたしたちはひとつのスマホに群がって。
 シリーズでいえば、第一作目の三章あたり。
 まだ副題のない『恋するだけでは、終われない』を読み返しながら。

 みんなと出会った頃を振り返って……ひとしきり笑っている。


「去年の今頃、か……」
 わたしは、当時在籍していた高校で。
 まだ向こうの学校で、放送部の顧問をしていた響子(きょうこ)先生と。
 わたしたちの将来について。
 
 ……たくさん、たくさん話し合っていた。

 ふたりで導き出した結論は、一緒に『環境』を変えてみよう。
 いや、実際は少し違うのだけれど。
 とにかく……わたしたちは。
 (すばる)君たちのいるこの『丘の上』へやってきた。


「確か正式に玲香ちゃんが転入したのって、二学期ですよね?」
「でもその前から、一緒に海にいったり夏合宿してたし」
「それどころか、一学期の終わりに押しかけてきたじゃないの……」
「うわっ、めちゃめちゃ迷・惑っ!」

 ……やっぱり『丘の上』にきたのは、大正解だった。

 前の高校の、つらい生活から抜け出すために。
 父親は、赴任中の国の高校に入るのはどうかと提案してくれたけれど。
 母親は……あまり乗り気ではなかった。


「転校するのは構わないのよ」
 母親は、あのとき。
「でもね。玲香が一度『ここで』笑顔になってから考えて欲しい」
 そんな難題を突きつけてきた。


 ……きっと母親は、とっくに響子先生と話し合っていたのだろう。


「どう? 一度会ってみない?」
 悩むわたしに、先生が引き合わせてくれたのが。
 この『丘の上』の放送部員たちで。

 まぁ……あの頃とは少し、メンバーは違うけれど。
 それでも『放送部』のみんなには変わりないし。
 なにより……その中には昴君がいた。


「なんだか玲香、楽しそうね」
 もう、せっかく昴君とのことをもっと思い出そうとしたのに。
「いったいなにを、妄想していたのかしら?」
 月子が……『わかっていて』邪魔をしてくる。

「あなた、『今回も』響子先生とは相談済みなんでしょ?」
 わたしの親友は、ほとんど決めつけた上で。

「さぁ?」
「相変わらず、素直じゃないわよね」
 わざとらしく、ため息をつく。


 古くは、去年の夏休み。
 突然留学するとわめいていた、春香(はるか)陽子(ようこ)
 そして、つい先ほどまで。
 女優になるために転校するはずだった、波野(なみの)姫妃(きき)

「響子先生、『相談』されるのに慣れてるからね」
「そうね。面倒なことが、好きなのかしら?」
 月子はそれから、一度肩にかかった髪をサッと流すと。

「……念のために聞くのだけれど」
 その藤色の瞳で、ジッとわたしを見つめながら。


 ……なにか隠していないかと、聞いてきた。


「それ……いまじゃなくてもいい?」
「だったら永遠に黙っていてもらえない? そのほうがスッキリするわ」
「もしかして、そのうち語ったらゴメン」
「本当に、ややこしい子よね」
「お互いさま、じゃない?」

「……一緒にしないで」
 すると月子が、わたしに背を向けると。
 少し離れたところで『立ったまま』の、昴君へと近づいていく。



海原(うなはら)くん」
 月子が呼びかけて。
「海原くん、帰るわよ」
 もう一度、呼びかけると。

「あ……教室ですね。は、はい」
 昴君が、ようやく反応する。

 ……そういえばわたしたち、朝礼前からここにいたんだ。

「あと十分後のバスで、帰るわよ」
 えっ、月子?
 いま……なんていったの?


「み、三藤(みふじ)先輩? 授業中ですよ?」
「それがなにか?」
「えっ……」

 成績優秀、品行方正、真面目で堅物。
 あと……なんでもいいけれど。
 いわば、『歩く校則』みたいな月子が。

「あとでいいので、みんなを『公欠』にしてもらえるかしら」
「はいっ?」
「そのための部長でしょ、お願いしたわよ」
 昴君に対して、思いっきり『三藤月子』になっている。


「あと九分もないわ、急ぎましょう」
 あまりのことに、みんながあっけに取られて固まると。
 月子がわたしを……またジッと見つめてくる。

「ねぇ月子、いったいどうしたの?」
「海にいくだけよ」
「ごめん。いま、なんて?」



 ……あなたと見た、海にいく。



「当時、まだ部員でもないあなたが」
 月子が、わざとらしく。
「図々しく美也(みや)ちゃんの、卒業写真に収まったのよね」
 事実を曲げて、解説する。

「それって『卒業アルバム』用の、放送部の写真のことだよね?」
「そうだったかしら?」
「もう! なんでもいいからいきますよ!」
 由衣がわたしたちのあいだに割って入ると。

「あの頃からずっと面倒なんですけど、このふたり!」
 姫妃と千雪に、アピールする。


「この先も、ず・っ・とそうだね!」
「困りますね、ホント」
 ふたりが、笑顔で答えると。
 わたしたちは、それから堂々と。


 ……みんなで、学校をサボって海に向かった。







「……ねぇ玲香ちゃん。帰る前、なにしてたの?」
 海辺を去る直前、わたしだけが少し離れたことについて。
 昴君が帰りのバスで、聞いてくる。


「それは、内緒」
「どうして?」
「昴君だから、内・緒」
「ええっ……」



 ……そんなこと、君にいえるはずがない。



 砂浜に残したのは、小学生のときの砂場遊びの『延長』で。
 落ちていた小枝で書いておくと。
 そのうち消えて……なくなるものだ。





 ……昴と玲香と、相合傘。





 ただ、あの頃と違うのは。
 込めた気持ちの……『深さ』だろうか?




 恋するだけでは、終われない物語の中で。

 わたしは少し……離れていく。



 でもね、昴君。
 わたしはこの先も、君のことを……。



 ……お別れしたって、忘れない。