恋するだけでは、終われない / お別れしたって、忘れない


 ……お願い、作者のひと。ここでわたしに出番を振らないで。


 その『余命もの』のタイトルを聞いた瞬間。
 涙を返せと叫んだ由衣(ゆい)は。
 わたしの隣で……最高に機嫌が悪くって。

「なにかしら、千雪(ちゆき)
「千雪、わたしも無理」
 月子(つきこ)ちゃんと玲香(れいか)ちゃんも、絶対巻き込むなとばかりに。
 無情な目でわたしを見る。


 ちなみに海原(うなはら)君は。
「そ、それって……」
 そこまでいいかけたあと、すっごく複雑な顔で固まっているので。
 しばらくのあいだ、そっとしておいてあげたほうがいいのかな?

 ……そ、それでは読者のみなさん。

 本当は、このあと。
 作者のひとに、最低でも百行くらい改行してもらって。
 わたしが発言した痕跡を、少しでも消してからにしたいのに。
 いきます……タイトルは、『余命八十七年の女』。

「そのまんま、平均寿命じゃないの……」
「こ、コメディ映画だったんですね……」
 よかった、月子ちゃんと海原君がツッコミを入れてくれた。
 ひとりだと恥ずかしかったから……ありがとう。


 なんでも姫妃(きき)ちゃんは、準ヒロインとして。
 映画の中で『若い頃』を演じる予定だったらしくて。

「小学生のシーンでね、三丁目の公園の中心で叫ぶんだ・よ」
「わざわざ、『余命』をですか?」
「そんなの……ただの近所迷惑じゃない」

「あとね、中学生のときにショックでボロボロ泣くの」
「『余命』を知ってですか?」
「多感なのにも、程度っていうものがあるじゃないの……」

「おまけに高校生で、悟っちゃうんだ・よ!」
「『余命』まで、どう生きていくかをですか?」
「ただの……暗い女よね」


「……なにかしら、千雪?」
「い、いえ。なんでもありません」
 だって『あの』月子ちゃんが、いうものだから。
 視線が、つい……。

「しっかし。名作の予感がしたのに、もったいねぇよなー」
「で・す・よ・ね?」
 加えて……業界人の発想にもついていけない。

 ねぇ姫妃ちゃん。
 まさかこの『変態の人』に。
 騙されたりしてないですよね?


 ただ、『女装したおっさん』は。
 すっごく悪い人では……ないらしい。

「頼む! 放送部のみなさん!」
 いきなり、大声で。
「ウチの波野(なみの)姫妃(きき)をもう一度迎えてやってくれ!」
 そういって頭を下げると。

「週末とか長期休みは……抜けるときもあるけれど。一緒がいいの・っ!」
「身勝手ですが、卒業までは『丘の上』でお世話にならせてください」
 姫妃ちゃんとお母さんも並んで、わたしたちに頭を下げる。


 ……そっか、転校しなくてよくなったんだ。



「よかったぁ!」
 すると、パッと顔のあかるくなった由衣が。

「お・か・え・りー!」
 とびきりの笑顔で。 
 ちっちゃな未来の女優を、思いっきり抱きしめる。


「それでは今後のことでも……相談いたしましょうか?」
 寺上(てらうえ)先生は、これにて一件落着だとばかりに。
 姫妃ちゃんのお母さんに、校長室に移動しようとうながすと。

「もちろん、ご同席してくださいますよね?」
 きちんと『変態の人』にも、声をかけている。

「もちろんです。ただ、申し訳ございませんがその前にひとつだけ……」
 すると『おっさん』が。
 先生たちにはきちんとした感じで。

「でよぉ、海原(うなはら)(すばる)……ほら、前にもいったんだけどよ」
 一方、彼にはそんな感じで。


 ……いきなり、映画出演のオファーをした。



「確か、白装束で棺桶に入る役ですよね……」
「そうそう、別の作品なんだけどな。コンマ三秒くらいは画面に出るぞ」
 どうしよう……ちょっと見てみたいかも。

「なにアンタ、死体役でデビューする気なの?」
 おまけに、由衣も乗り気になって。

「いいですよ! 好きなだけ棺桶に入れてやってください!」
「本当か、いいのか?」
「どうぞどうぞ! そういうのすっごく得意なんで!」
 よくわからないけれど、本人を無視して。

「なんなら、そのまま燃やしてもらっていいですよ!」
「いいのか! そりゃぁ役の幅が広がるな!」
 うまいこと、話しがまとまりそうになったところで。


「絶・対・ダ・メ・ー・っ!」


 姫妃ちゃんの、叫び声が。
 思いっきり……会議室内に響き渡った。



「そんなの……絶・対・許さない……」
 すごい迫力の姫妃ちゃんが。
 ゼェゼェと、肩で息をしていて。

 ある意味ちょっと……おもしろいけれど。
 まぁ、わたしだってわかる気はする。


 ……きっと、好きな人のそんな姿なんて……見たくないんですよね?


「えっ?」
「な・に? 千雪?」

 訂正だ、わたしの間違いだ。
 姫妃ちゃんって、やっぱり以前自分で宣言しただけあって。

 性格が……悪いらしい。


「だって、当たり前でし・ょ・っ!」
 わたしには、芸能界への興味がないからわかないけれど。
 棺桶に入るかどうかなど……些細な問題でしかないらしく。

「海原君がもし『デビュー』したら! わたしの『先輩』だ・よ・っ!」
 どうやら、姫妃ちゃんによれば。
 大切なのは『そっちのこと』らしくて。


 だから姫妃ちゃんは、彼に向かって。
「わたしより先に映画出演なんて。ぜ・っ・た・い・許さないっ!」
 思いっきり背伸びをして告げると。

「そ、そんなことしませんから……」
「本当だよ? 裏切ったら棺桶に入れて崖から落とすからね・っ!」
 絶好調で、彼に『かまってもらおう』としている。



「あの子と、『お別れ』し損なったわね……」
「えっ?」
「頭が痛いわよね、千雪」
 隣で月子ちゃんがそういって、小さくため息をつく。

 うれしいはずなのに、素直なじゃない先輩は続いて。
「でも、しかたがないわよね。玲香?」
 反対側の、もうひとりに声をかけたあと。


 ……珍しく自分から。


「おかえりなさい」


 そういって……姫妃ちゃんをしっかりと抱きしめた。