「……放送部『以外』の思い出、ですか?」
わたしは、いま。
「そうですねぇ……」
インタビューを、受けている。
大好きな『丘の上』の放送室で、いつも読んでいたその雑誌。
高校の頃の、憧れだったその表紙を。
上京して、それなりの女優になったわたしが飾るなんて。
……海原昴君が知ったら、どう思うだろう?
「お別れしたって、忘れない」
そう心に決めたときから、ようやくここまでやってきた。
だからきっと、きっと海原君なら。
やさしくほめて……くれるよね?
「あの頃のわたしの生活は、全部『放送部』を中心に回っていたので……」
高校二年生を終えようとしていた当時の、波野姫妃。
もし、あの頃のわたしを思い返すとすれば……。
「あっ、そういえば!」
結局、これからお話しする思い出も。
いきつく先は……同じなのだけれど。
「あのとき、『会ってしまった』んですよ……」
わたしは、当時の『その人』を思い出しながら。
「ぜひ、聞いていただけますか?」
少し前のめりになると。
……あの頃に、戻ることにした。
「ねぇっ! ちょっと、聞い・て・よ・っ!」
放送室の扉を開いてわたしが叫ぶと。
中にいたふたりが揃って、こちらを見る。
「な、波野先輩……?」
まずそういって驚いてくれるのは、海原昴君で。
「姫妃、静かにしてもらえないかしら」
安定の無愛想な声なのは、三藤月子。
要するに、わたしたち『放送部』の部長と副部長だ。
「前の授業中に図書室いったら、『女装したおじさん』がいてね・っ!」
ホント、衝撃だよね!
「しかも座って、本読んでたんだよ!」
絶対、ありえないよ・ね・っ!
「は、はぁ……?」
「図書室で読書するのは……当たり前じゃないかしら?」
ちょっと!
いったいな・ん・な・の、このふたり!
「いや先輩、それよりも……」
「あなた。授業中に図書室で、なにをしていたの?」
おまけに……。
気にするポイントが、違わ・な・い?
「それは先生が、スマホとジャムと枕を忘れたから取りにいってあげただけっ!」
普通は、それ自体が『異常』ではあるけれど。
「ああ、なるほど」
「また『あの先生』なのね……」
ふたりはその点は、すぐに納得したらしい。
「でね、その『女装したおじさん』が・ね!」
だったら早く、肝心のことに共感してよと。
「いきなりわたしを見て『あんた、誰?』だよ。ありえなくな・い?」
もう一度わたしが、話しを振ったのに。
「その気持ち……わからなくはないわね」
月子は、失礼なことを平気で口にするし。
「ま、まぁ……」
海原君は、煮え切らない返事をするばかりだ。
「姫妃、そろそろいいかしら……」
月子はそういってから、小さくため息をつくと。
右手で、肩にかかった黒髪をサッと流してわたしを見る。
無駄に美しいその動作に。
わたしは一瞬、見とれてしまいそうになったけれど……。
もしかしていまのって、なにかの合図だったりする?
「……ホント、さっきから失礼な子よね」
するといきなり、割と最近聞いた気のする太い声がして。
「ちょっとあんた、いい加減気づきなさい」
「えっ?」
わたしが、開けたままの扉の裏へと顔を向けると。
あろうことかそこにはなんと。
……あの『女装したおじさん』が、立っていた。
「やや個性的な見た目ですが、腕は本物だそうです」
「あなた以外は、みんな校長から紹介を受けたのよ」
「ま、そういうこと」
海原君と月子、あと『おじさん』の説明によれば。
どうやらこの人の『きょうの職業』は。
まさかの……『学校案内の写真を撮る人』らしい。
ちょうどほかのみんなが、放送室にやってきて。
「これで、全員揃いました」
海原君がその『おじさん』に伝えると。
「よし、カメラテストしたいから並びな」
ショッキングピンクのフレアスカートをはいたその人が。
図々しくみんなに、呼びかける。
「あんた、早く作り笑顔の準備しな」
「えっ?」
「なによ? それくらいなら、あんただってできるでしょ?」
ちょっと。な・ん・な・の、この失礼な人!
ただ……この『おじさん』は。
見た目以外にも、とっても不思議な人だった。
「お澄ましのあんたは、並ばなくていいわよ」
月子が『写る気がない』のを見抜くのはまぁ、簡単だろうけれど。
「もう卒業するからって遠慮してるあんた、中央に入って」
「わたし、ですか?」
「ほかにいないでしょ、ほら都木美也早く」
わたしたちを、あんたかフルネームのどちらかで呼んだりする上。
「じゃ。好きな人をイメージして、スマイルしなさい」
「えっ?」
「なによ? すぐそこの男、見たらいいだけじゃない」
わたし以外にも……容赦ない。
「ほら。赤根玲香、高嶺由衣、市野千雪」
「は、はい」
「あんたたちも、女子高生のプライドあるんだったら……」
カメラを軽く構えた、その人が。
「『女装したおっさん』よりかわいいんだって思って、笑いなよ」
いいおえた瞬間に、シャッターを切る。
「よし、完璧」
「えっ、一回だ・け?」
「なによ? 『カメラの』テストっていったでしょ」
「でも……」
「ホント、失礼な子ね」
わたしをジロリと見たその人は。
「三秒数えな」
そういって目の前にずいと、カメラを近づけて。
わたしが数え終えるその直前。
一度だけ音を、響かせる。
「女優に憧れてまーすみたいな軽い女なんて、いっぱい見てるのよ」
「えっ?」
真面目な顔の『女装したおじさん』が。
「あんた、自分がかわいいとしか思ってないでしょ」
わたしの心を、突いてくる。
「でも、あんたは美しいよ」
おまけに、誰からもいわれたことのなかった言葉を。
「そう。かわいいんじゃなくて美しい」
この人は……平気で口にする。
……な・ん・な・の、この人?
「いわなかった? わたしプロだから」
その人は、今度はニヤリと笑うと。
「ほら、自分で確かめな」
撮ったばかりの写真を、手早くタブレットに映し出す。
「えっ……」
画面の中には、わたしがいて。
それは確かに、わたしなのだけれど。
……わたしが見たことのないような、わたしだった。
「ちょっと、海原昴」
「はい」
「このあと、『ひとりだけ』借してもらえない?」
その人が海原君に、話しを向けるあいだに。
「ね、ねぇ。玲香?」
わたしは、小声で。
「誰かわたしが女優志望とか、あの人にいった?」
念のために確かめたものの。
彼女は首を、ゆっくりと横に振る。
「決めたわ」
するとその人が、突然。
「あんたたちの学校も、美しく撮ってあげる」
めちゃくちゃ上から目線で、宣言すると。
それから……わたしのことをはじめて。
「だから波野姫妃。あんた、ちゃんと案内しなさいよ」
……フルネームで、呼んでくれた。

