恋が生まれた日



しばらく席を開けていたせいかもともと座っていた場所は先輩に取られていた

かなり話が盛り上がっているようだ

どこに座ろうか悩んでいたら後ろから


「そこ座ったらいいよ」


と声がかかった

後ろを向くと別の先輩がいた

先輩を先に座らせ、その隣に紬も座る


「紬、遅かったね。大丈夫?」


と友人が声をかける


「......うん。ちょっと飲み過ぎたみたい」


さすがにトイレで急病人を助けてましたとは言いにくい

誤魔化すのは心苦しいがヒーローみたいな扱いは苦手


残りのドリンクを飲み干して再び席を立つ


「ごめん、先帰るね」


そう断りを入れて財布から出したお札をテーブルに置く



レジに立っていた店員にタクシーをお願いして紬は店から出る

3月といえども夜はまだ寒い時もある

着ていたパーカーのジップを上までしっかり閉めた


「俺も帰るわ」


急に後ろから声がした
振り向くとさっきの先輩が隣に立っている

紬はその場に居合わせただけで、先輩の名前すら知らない

人との交流が苦手な紬は何を話せばいいか分からず、視線を落とす

足元にあった葉っぱは風に乗ってどこかへ転がっていった

タクシーが来るまでのわずかな時間がやけに長く感じる