もう、逃げ場はない
視線を逸らしたまま首を横に振る
「...なんでも、ないです」
声が少し震えていた
「それ、さっきも聞いた」
動揺している紬に対していつも通りの橘先生
ズバッと返される
何も言えず、ただ白衣の裾をぎゅっ、と握る
「...そこまで言って、言えないのか?」
怒りにも似た表情が見て取れる
その威圧に負けたのかやっとの思いで声を絞り出す
「......最近
先生が......」
そこまで言って口が止まる
心臓の音がうるさい
言ったらこの関係は終わってしまう
でも言わなかったら続くこの時間
覚悟を決めて一呼吸置く
「......先生が
いないと......
そのときだった
ピリリ、ピリリ
橘先生のPHSが鳴る
迷うことなく電話に出る
「はい、橘です」
空気がガラッと変わる
紬は逃れることができてほっとしたが、依然、心臓は早いままだ
橘先生は電話を切り
「急患だ、出血多量の妊婦が運ばれて来る」
その言葉を聞いた瞬間、頭が切り替わった
さっきまでの感情を無理やり押し込める
「はい!」
短く返事をして走り出す
言いかけてた言葉は、紬の心に置いたままで
処置室に入ってからは慌ただしく動く
まるでさっきまで悩んでいた人とは思えないほど
紬は目の前だけに集中した
「だめだ」
橘先生のその一言がやけに鮮明に残っている
気づけば全てが終わっていた
救えなかった命も
言えなかった言葉も
すべて暗い夜の中に沈んでいった
視線を逸らしたまま首を横に振る
「...なんでも、ないです」
声が少し震えていた
「それ、さっきも聞いた」
動揺している紬に対していつも通りの橘先生
ズバッと返される
何も言えず、ただ白衣の裾をぎゅっ、と握る
「...そこまで言って、言えないのか?」
怒りにも似た表情が見て取れる
その威圧に負けたのかやっとの思いで声を絞り出す
「......最近
先生が......」
そこまで言って口が止まる
心臓の音がうるさい
言ったらこの関係は終わってしまう
でも言わなかったら続くこの時間
覚悟を決めて一呼吸置く
「......先生が
いないと......
そのときだった
ピリリ、ピリリ
橘先生のPHSが鳴る
迷うことなく電話に出る
「はい、橘です」
空気がガラッと変わる
紬は逃れることができてほっとしたが、依然、心臓は早いままだ
橘先生は電話を切り
「急患だ、出血多量の妊婦が運ばれて来る」
その言葉を聞いた瞬間、頭が切り替わった
さっきまでの感情を無理やり押し込める
「はい!」
短く返事をして走り出す
言いかけてた言葉は、紬の心に置いたままで
処置室に入ってからは慌ただしく動く
まるでさっきまで悩んでいた人とは思えないほど
紬は目の前だけに集中した
「だめだ」
橘先生のその一言がやけに鮮明に残っている
気づけば全てが終わっていた
救えなかった命も
言えなかった言葉も
すべて暗い夜の中に沈んでいった
