恋が生まれた日

葵との再会で、紬の中にあった罪悪感は静かに消えていった

これでようやく、専攻医として前に進めると思った

けれど

別の問題が、紬の中で確かに芽を出していた

気づかないふりをしても、消えてはくれない

あの人の存在が

ふとした瞬間に浮かんでくる



「おい、邪魔だ」

「あ、すみません...」


最近の紬はぼーっとすることが増えた

考えても答えの出ない問題

かけられる言葉全てが種となる



「......はぁ」


今日、何度目か分からないため息をつく

ため息をつくと幸せが逃げていくというがとっくに紬の幸せは残っていない

気分を変え、今夜は飲みにでも行こう



カラン

紬は仕事帰りの足で近くのバーに来た

マスターがカウンター席を案内してくれる

お酒が好きな紬はとりあえずカクテルを頼む

ごくっ、と喉を潤す

仕事終わりのこの一杯が至福のひととき


「......結婚したんだ」


大学時代の同期がまた1人...と結婚している

友達の幸せそうな投稿をつまみに1人寂しく飲んでいた


カラン


扉の音が静かな空間に響く

紬は気にせず、見続けていた


「お、朝比奈先生じゃん」


聞き慣れた声が俯いていた紬の顔を上げる


「...橋本先生」


お互いに少し驚いた顔をする


「こんな所で会うとはね」


「隣いい?」と紬の隣に腰を下ろす


「お一人ですか?」

「まぁね、朝比奈先生も?」

「...はい」


隣に座った橋本先生はマスターからおしぼりを受け取りビールを注文した


「仕事大丈夫なんですか?」

「うん、明日は休み」

「......そうなんですね」


沈黙の時間が続く

気まずい紬はついついドリンクに手が伸びる

橋本先生のビールが置かれる

そのまま軽く乾杯をしてお互いに一口飲む

橋本先生が口を開く


「...なんか悩んだ顔、してるね」