恋が生まれた日

鏡の前で小さく息を吐く

あの場から離れたのはいいものの帰りづらくなっていた

このまま帰ってしまおうか

飲み過ぎたことにすればいい

そう思った時、



バタバタと走る音がこちらへ向かってきた

鏡越しに一瞬、人影が映り奥の方へと消えていった

驚いて奥の方を見てみると肩を小刻みに揺らしている女性がいた

紬は考えるよりも先に体が動いた


「……っ、は……っ」


「大丈夫ですか?」


背中をさすりながら状態を確認する

呼吸が浅く、時折ひゅぅ、と音がする


頭をフル回転させてどうしたらいいか考える



「......薬ありますか?」


おそらく喘息の発作だろうと判断した紬は女性に尋ねる

もちろん女性に反応できる余裕はない

「ちょっと見ますね」と声をかけ鞄の中を漁る


小さなポーチの中に喘息発作時の吸入薬が入っていた

「これを吸ってください」

口元に当て一緒に呼吸のサポートをする

「吸って......吐いて、そうそう、ゆっくり...」




遠くで笑い声が響く

紬の世界には目の前の呼吸だけがある