恋が生まれた日

研修医も残り半年

すでに進む道は決めた

喜びも悲しみも一つひとつ噛み締めた

辞めたいと思ったこともあった

そんなときそばで支えてくれた人に恩返しがしたい──

その思いを胸に今日も進むべき方へ歩みを進める



「産まれたか?」

「はい......ちょっと緊張しました」


昨晩当直だった紬は夜中の分娩に立ち会っていた

橘先生はいなかったが、別の先生がサポートをしてくれた

とは言ってもメインで手を動かしたのは紬だった

無事に胎児が産まれるか、処置は合っているか、両方の緊張感が胸を押さえつける

今、ようやくその緊張から解放されたところだった

何度も分娩を経験してきたが、同じ分娩は一つとしてない


「お疲れ様」


橘先生は紬に砂糖入りの缶コーヒーを渡す


「......ありがとうございます」


橘先生は知っていたのだ

紬が一仕事終えた後、このコーヒーを飲んでいることを

ここに来る前に買ってきたのだろう

冷えているはずなのに手にした瞬間なぜか温かく感じた

紬はプルタブを引き、一口飲む

ふと、自席についた橘先生の視線に気づく


ドクン——


と胸が跳ねるのを必死で隠すように目の前の缶コーヒーに視線を逸らす


「...まさかっ、毒入り?」

「あほか、どうやって入れるんだよ」


紬は咄嗟に笑って見せる

本当は心臓が飛び出しそうなくらいドキドキしていた

その気持ちを誰にもバレないように隠した