転校してから約一週間。
だいぶ学校にも慣れてきた。
あれから人気者の琴音と実琴と一緒に行動するようになったのが嬉しくて未だに現実だと思いきれない。
今日はそんな二人にあげようとクッキーを作ってきた。どんな反応をするのか気になる一方で持ってきて良かったのか心配だ。
そんなの先に確認しとけって話なのだが、それを聞けたらこんなになってない。
頭を悩まされているとガシャンという耳が壊れそうなほど大きな音が静かな朝の街に鳴り響く。見るといつもの通学路に女の子がしゃがみ込んでいる。身長的には小学生くらいなのだが同じ制服を着ていたことで彼女も中学生だと知る。
隣には自転車も倒れている。何があったのかと声をかける。
「どうしたの?」
彼女は私を見た後、俯き下の方を見る。私も彼女と同じ方を向くと足首のあたりが赤く腫れ上がっている。なかなかに酷い腫れようで思わず顔を顰めてしまった。
「自転車、電柱にぶつかったの。寝不足でつい...」
ぶっきらぼうな声で答えてくれた彼女は可愛い見た目に反して塩らしい対応をしてくる。
ただ声をかけてみたはいいもののこの状態を解決する案は皆無だった。
「と、とりあえず救急車?」
そう言って119番をかけようとすると、ダメ!と言う声が聞こえた。
「こんなちょっと腫れたくらいで救急車呼ぶなんてバカじゃないの?ただでさえ救急車の数が減ってるんだからこれ以上減らしてどうすんのよ。いい?こう言う時はまずRICE処置をするの!」
「アール、アイ、、、なんだっけ?」
いきなり早口で喋り出す上に年下とは思えないような言動をする彼女に私はさらに混乱してしまった。むしろ元気になったんじゃないかとさえ思った。
「そんなことも知らないの?全く今まで何習ってきたのよ!RICE処置は安静、冷却、圧迫、拳上の略のことなの。タオルは持ってる?それと冷やせるものを持ってきて。早く!」
「は、はい!」
有無を言わせない剣幕に私はカバンの中にあった汗拭きタオルを取り出した。しっかりとした長さもあるし新品だから問題ない。丁度昨日買って使うのを楽しみにしていたのだが今はそんなこと言ってられない。保冷剤はお菓子をで冷やすのに使っていたためそれも見せる。
彼女に言われた通りに淡々とこなすと不器用な私でもできた。
「しっかしよくできたものだなー。私じゃここまで冷静な対処はできなかったよ。君名前は?」
馬鹿じゃないの?やそんなことも知らないの?と言う言葉に少しイラっときたのはさておきここまでの知識があるのは単純に凄いと思ったので一応名前を聞いておく。私は普段人見知りなのだが年下だけには何故かその感情がわかず、普通に話すことができる。
彼女は呆れまじりにため息をつくと私を睨みながら言った。
「別に助けてもらったからって仲良くなったわけじゃないから。勘違いしないでよね。しかも私の指示なしじゃ何もできないじゃない。一体今までその頭で何習ってきたの?」
年下であろう子になぜこんなに言われなくてはいけないのかはわからないがとても嫌われていることだけはわかった。
その子は言うだけ言うとスッと立ち上がり去るーはずなのだったのだろう。立ったはいいもののまだ痛いようで産まれたての子鹿のように足がプルプルしていると思ったら今度は転んでしまった。その後何回も立とうとするが失敗してしまう。
みかねた私は肩貸すよ、と言ったのだが
「い、いいもん。こんぐらい自分で歩けるし。」
と言って譲らない。歩くこともままならない人を置いて行けるわけもなく私は半端強引に彼女の腕を自分の肩に乗せ歩き出す。
「ちょ、ちょっと。自分で歩けるって言ってるのに。」
「歩けてないからこうして肩を貸してるの。あのままだったら行くだけで日が暮れちゃうよ。」
「だって遅刻するでしょ?私がどうなろうとあんたには関係ないじゃない。」
少しというかかなり口は悪いが私のことは気にかけてくれているらしい。昔からお節介と言われ続けて14年。引き下がるわけにはいかない。
「私が話しかけた時点でもう他人じゃないもん。しかも生まれたての子鹿みたいな人を置いていけるほど馬鹿じゃないから。」
「誰が子鹿だって?」
「自己満足でやってるだけだし。お節介な私を舐めない方がいいよ。黙って甘えときな。」
「・・・・・・」
今更何を言っても通じないと思ったのか彼女はやっと私に寄りかかってくれた。それが嬉しくてニヤニヤしてると
「何よ。言われた通りにしたんじゃない。悪い?」
「ぜーんぜん。」
「あんたって本当に意味がわからない。」
急に陽気になった私を怪訝そうな顔で見ている。それはそうだ。私自身もわからない。
