「よっ琴音。元気にしてるか?」
一時間目の終わりの休み時間。私は入り口である人と喋っていた。
「朝あったばっかりでしょ。っていうか京がうちくるの珍しいじゃん。で何の用?」
まるで親子のような会話をしているのは幼馴染の三河京だ。家族ぐるみで仲が良く今でもちょくちょく話している。
これが幼馴染というやつだろう。何の用?と聞いているが大体予想はついている。おそらく転校生を見に来たと読んだ。さすが情報屋。まだ転校生が来てから1時間と経っていないのに。
ウワサが広まるのは早いなとしみじみ実感する。
「うん。ちょっとね。」
と言いながらも目線は転校生の方だ。どんなやつ?と聞かれると私が思った印象をそのまま伝える。
「確か....音葉っていう名前だったよ。おとなしそうな感じだったよ。それに....」
特にわざわざ口に出すほど重要な事でもなかったので口をつぐむ。
「どうしたの?」
それよりもこんなに動揺してるのは初めてなので何かあったのかと心配になり、声をかける。
「い、いやなんでもない。それより最近駅前にパフェ出来たんだけど知ってるかー」
私には見えていた。驚いているような喜んでいるようないやそれよりもー
なぜそんなに"悲しそう"なんだろう。
そして放課後、駅前のパフェに来ていた。
「やっぱいちごのパフェは最高よ。」
「あたぼうよ。美味しく無いわけ無いでしょ」
「そのあたぼうよって何?」
実琴はバックからスマホを光の速さで取り出して素早く文字を打つ。
「当然、当たり前という意味だって。どっかで聞いたことあったんだよね。」
知らないのに使ってたんだというツッコミはさておき、ふーんと自分で聞いたのにも関わらず冷たい反応をしてしまった気がして心配になるが実琴は全く気にしていない。よかったと胸を撫で下ろしパフェをほう張る。
「そういえば当たったね。転校生が来る予想。凄いな私の友達の友達の友達の友達。」
「ふっ、あたぼうよ。しかも私の隣の席。」
「琴音はなにもしてないでしょ。っていうかどんなその転校生ってどんな感じ?ザ、陰キャって感じしたけど。それともオタク?」
「んー少し話したけどいい子そうだったよ。私にお辞儀とかしてくれたし。礼儀正しいんだなぁって思ったけど。」
朝の出来事を思い出す。あとの時間は他の女子からの質問攻めに合っていたので特に話したりはしなかった。
「へぇー琴音はいかにも不良じゃん。なのによくお辞儀とかしようと思ったね。」
思わず素っ頓狂な声が漏れる。自分では全くその自覚がないのだ。
あんな学ランみたいな服は着たことないし、第一授業も少し寝てる時があるくらいでノートはしっかり取っている。
「自分で自覚ないの?だって先生にはタメ口だし、暇な時は寝てるし注意されても聞いてないし。体育の時間以外で授業真面目に受けてるの見たことないもん。しかも、この前クラスの子が不良と話してるの見たって。」
「誤解だよ。だってなんで友達にはタメ口なのに先生には敬語じゃなきゃいけないのか意味わかんないし、授業をわかってたらいい話でしょ?しかもあれは不良じゃなくてと・も・だ・ち!」
「だからそれを不良って言うんだよ。ただでさえうちの学校はレベル高いんだから少しでもそう言うことしてるとすぐ不良って言われちゃうよ。」
そう、この中学校は県内でもトップクラスの学校だ。特に何か受験があるわけではないので私は普通に入れた。しかし、将来を期待されている生徒も何人かいるらしい。
確かになぁと思いながらバニラアイスといちごのシロップをスプーンで混ぜる。見た目が綺麗だし、組み合わせにもよるが大体美味しいのでパフェを食べる時は毎回そうしている。
「だとしても不良は嫌だよ、不良は。」
「減るものはないから良いじゃん。自由そうだし。」
「友達が減るんだよ!」
実琴と別れ、いつものように歩きながら家に帰ったら何しようかなと考えて居ると突然、曲が流れてきた。
ここら辺に店などはなく公園しかない。いつもは流れることはないとすれば誰かが流しているとしか思えない。しかも何処かで聞いたことのあるような聞き馴染みのある曲だった。
その音を頼りに通学路を少し外れた公園に入るとすぐに見つかった。ゆっくりと音を立てずに近づくとやっほーと声をかける。すると肩をビクッと振るわせ振り返る。驚いたような顔で私の名を呼ぶ。
「琴音、さん?」
その曲の発信源はまさかの橋口音葉だった。
「ど、どど、どうしてここに?」
「いや〜通学路だったもんで。聞こえたからつい。しっかしすごいね。バイオリン弾けるなんて。」
「いっいや、そんな。私なんて下手だし。」
褒められたことが嬉しいのか少し頬を赤らめながら首を横に振る。
「だったら少し聞かせてよ。そしたら上手いか上手くないかわかるでしょ?私も前ちょっとだけだけやってたからバイオリン。」
「ま、まあちょっとだけなら...」
渋々と言った感じでバイオリンを構える。そして一息つくと弾き始める。さっきも弾いていた何処かで聞いたことのあるような曲だった。バイオリンを弾く彼女の横顔は夕日に照らされるのも相まってより綺麗に見えた。一つ一つの音を丁寧に奏でている。弾いている間、特に何か言うわけでもなくただただ座って聞いていた。それがとても心地が良かった。
一生続けば良いとさえ思った。
弾き終わる頃にはすっかり聴き入っていてしばらくその余韻に浸っていた。
「どうでしたか?自分的には上手く出来たと思うのですが....」
「なんかこう....とってもすごかったよ!めっちゃ良かった!」
あんなに感動したのに中々上手く言葉にできない。やったことがあると言った手前凄いとしか言えないのに嫌気がさしてくる。でも本当に凄いのだ。何が凄いのかと言うとわからないが。
「習ってるの?バイオリン。」
「はい。でも昔小学生くらいの頃に習って、それきりです。結構好きだったんですけど色々あって辞めちゃって....」
そう言う音葉は寂しそうだった。どれだけバイオリンが好きだったかよくわかる。
「そういえば、さ」
これ以上踏み込むのはダメな気がして話題を変えることにした。
「どうせ席も隣じゃん。お互い自己紹介でもしようよ。」
「まずは私から。相川琴音、14歳。よろしくね。あ、琴音さんは堅苦しいから他の呼び方で。」
「じゃ、じゃあ琴ちゃんとかどうですか。なんちゃって....」
「おお、めっちゃいいじゃん。じゃあ私は音ちゃんって呼ぶわ。よろしくね、音ちゃん。」
「よろしくお願いします。で次私ですね。橋口音葉、14歳。好きな花はミヤコワスレです。」
「ミヤコ、ワスレ?」
「はい。昔の人がこの花を見ることで都を忘れられたと言う伝説があって。その花言葉が好きなんです。」
そういう音葉は楽しそうだ。微笑ましくてふっと笑う。
「転校する時に渡したんです。お揃いのキーホルダー。仲の良かった子に。」
そう言って見せてくれたのはハートの形をしたキーホルダーの中に薄紫色のミヤコワスレが飾られている物だった。
真ん中が分かれるようになっていて2人で別々につけられるようになっている。音葉が持っていたのはその片方だ。
「私、その子に酷いこと言っちゃって、喧嘩になったんです。そのまま顔も合わせずに転校していったから…」
「貴方との友情も幸せな日々も全部本物だったよ。私の事なんて忘れて幸せに生きてって。最後の悪足掻きっていうか、もしかしたら気づいてくれるかな、なんて最低ですよね、私。」
「そっか....じゃあその子はいい友達に恵まれて幸せだね!」
音葉はすこしあっけからんとした顔をした後ニコッと笑って、「はい!」と答えた。
その顔は何よりも嬉しそうで今日初めて見た中で1番だった。
「…あっそろそろ帰らないとお母さんに怒られる。じゃあね。また明日。」
「はい。また明日。」
あたりが暗くなっていたので速足で家へと急ぐ。なぜだか頭がぼーっとしていた。多分あの曲を聞いてから。ただ単に魅入っていたからでは無い。針が刺さる様な頭痛がするのだ。
「何か思い出せそうだったのに。」
私がバイオリンを辞めた理由。お母さんがバイオリン教室の先生でよく習っていた。
ちょっとだけとは言ったがかなり長い間やっていた気がする。弾くのは楽しかったし褒められるのが楽しかった。なのに....
「なんで辞めちゃったんだっけ。」
私の声だけが誰もいない通学路に響いていた。
