奈々を家まで送り届けたあと、しばらく車を動かせなかった。
エンジンは切ったまま。
住宅街は静かで、遠くの信号の電子音だけがかすかに聞こえる。
――無事でよかった。
それだけでいいはずだった。
本当に、それだけで。
公園での奈々の表情が頭から離れない。
距離を詰めた瞬間。
ほんのわずかに、体が引いた。
ほんの数センチ。
でもあれは、間違いなく“届かなかった距離”だった。
嫌われたわけじゃない。
奈々は手を握り返してくれたし、
迎えに来てくれてありがとうって言ってくれた。
それでも。
あの一瞬の迷いは、はっきり見えた。
ハンドルを強く握る。
指先が白くなる。
「……そりゃ、焦るよな」
小さく吐き出す。
諒。
名前を思い浮かべただけで、胸の奥が重くなる。
あいつは奈々を助けた。
俺がいない場所で。
俺より先に。
悔しいとかじゃない。
そんな単純な感情じゃない。
ただ。
奈々の中に、確実に入り込んでいる。
それが怖い。
「ダサ……」
笑おうとした。
うまく笑えなかった。
ハンドルに額をつける。
視界が滲む。
最初は疲れてるだけだと思った。
でも違った。
ぽた、と手の甲に何かが落ちる。
一瞬、雨かと思う。
車の中なのに。
遅れて気づく。
――泣いてる。
声は出ない。
嗚咽もない。
ただ、静かに涙が落ちる。
奈々を責めたいわけじゃない。
諒を憎みたいわけでもない。
ただ。
奈々を失うかもしれないって思った瞬間、
どうしようもなく怖かった。
高校二年の春。
告白した日。
手を繋いだ帰り道。
何年もかけて積み重ねてきた時間。
それが、崩れるかもしれない。
そんな未来、想像したこともなかった。
「……それでも、好きなんだよな」
声に出してみる。
少しだけ、呼吸が整う。
好きだから、縛りたくない。
好きだから、選ばれたい。
今日、公園で決めた。
待つって。
奈々が、自分で答えを出すまで。
逃げないって。
涙を拭う。
スマホが光る。
奈々からだった。
「今日はありがとう。
颯太が来てくれて安心した」
画面が滲む。
今度は、少し違う熱。
ゆっくり息を吐く。
返信を打つ。
「いつでも呼べよ。俺、奈々の味方だから」
送信。
胸の奥は、まだ痛い。
でも。
エンジンをかける。
フロントガラスの向こうに広がる夜は静かだ。
静かなまま、ちゃんと戦う。
奈々を好きな気持ちは、消えない。
だから。
逃げない。
この恋を、ちゃんと守る。
たとえ、負けるとしても。
エンジンは切ったまま。
住宅街は静かで、遠くの信号の電子音だけがかすかに聞こえる。
――無事でよかった。
それだけでいいはずだった。
本当に、それだけで。
公園での奈々の表情が頭から離れない。
距離を詰めた瞬間。
ほんのわずかに、体が引いた。
ほんの数センチ。
でもあれは、間違いなく“届かなかった距離”だった。
嫌われたわけじゃない。
奈々は手を握り返してくれたし、
迎えに来てくれてありがとうって言ってくれた。
それでも。
あの一瞬の迷いは、はっきり見えた。
ハンドルを強く握る。
指先が白くなる。
「……そりゃ、焦るよな」
小さく吐き出す。
諒。
名前を思い浮かべただけで、胸の奥が重くなる。
あいつは奈々を助けた。
俺がいない場所で。
俺より先に。
悔しいとかじゃない。
そんな単純な感情じゃない。
ただ。
奈々の中に、確実に入り込んでいる。
それが怖い。
「ダサ……」
笑おうとした。
うまく笑えなかった。
ハンドルに額をつける。
視界が滲む。
最初は疲れてるだけだと思った。
でも違った。
ぽた、と手の甲に何かが落ちる。
一瞬、雨かと思う。
車の中なのに。
遅れて気づく。
――泣いてる。
声は出ない。
嗚咽もない。
ただ、静かに涙が落ちる。
奈々を責めたいわけじゃない。
諒を憎みたいわけでもない。
ただ。
奈々を失うかもしれないって思った瞬間、
どうしようもなく怖かった。
高校二年の春。
告白した日。
手を繋いだ帰り道。
何年もかけて積み重ねてきた時間。
それが、崩れるかもしれない。
そんな未来、想像したこともなかった。
「……それでも、好きなんだよな」
声に出してみる。
少しだけ、呼吸が整う。
好きだから、縛りたくない。
好きだから、選ばれたい。
今日、公園で決めた。
待つって。
奈々が、自分で答えを出すまで。
逃げないって。
涙を拭う。
スマホが光る。
奈々からだった。
「今日はありがとう。
颯太が来てくれて安心した」
画面が滲む。
今度は、少し違う熱。
ゆっくり息を吐く。
返信を打つ。
「いつでも呼べよ。俺、奈々の味方だから」
送信。
胸の奥は、まだ痛い。
でも。
エンジンをかける。
フロントガラスの向こうに広がる夜は静かだ。
静かなまま、ちゃんと戦う。
奈々を好きな気持ちは、消えない。
だから。
逃げない。
この恋を、ちゃんと守る。
たとえ、負けるとしても。

