あの公園で、君に会えたら

日曜日の昼下がり。

奈々の部屋のカーテン越しに、柔らかな光が差し込んでいた。

キッチンからは、慣れない物音。

「ちょ、油はねてるって」

奈々が笑う。

「うるせぇ、料理なんかしたことねぇんだよ」

エプロン姿の諒が、フライパンと格闘している。

その光景があまりに不自然で、
奈々はつい見とれてしまう。

極道の若頭。

なのに今は、卵を焦がしそうになっている。

「火、弱めて」

「どれだよ」

「それ右」

「右ってどっちだ」

笑いがこぼれる。

こんな時間が来るなんて、
少し前まで想像もしていなかった。



テーブルに並んだのは、形のいびつなオムライス。

「見た目は悪いけど味は普通」

諒が不機嫌そうに言う。

奈々は一口食べて、笑った。

「うん、普通」

「なんだよその言い方」

「でも嬉しい」

そう言うと、諒は少しだけ視線を逸らした。

「……たまにはこういうのも悪くない」

その横顔が、柔らかい。

奈々の胸が、じんわり温かくなる。

あぁ、好きだな。

改めて思う。

守られたからじゃない。

強いからでもない。

不器用に優しいこの人が好きなんだ。



食後、ソファに並んで座る。

テレビはついているけど、誰もちゃんと見ていない。

諒の腕が自然に奈々の肩に回る。

あの夜みたいな強さじゃない。

ただ、そこにいるだけの重さ。

奈々はその胸に少しだけ寄りかかる。

安心する。

でも――

ふと、空港の映像がテレビに映る。

アナウンサーが海外赴任の話題をしている。

一瞬だけ、胸がきゅっとなる。

ロサンゼルス。

今頃、準備してるのかな。

颯太の顔がよぎる。

ほんの一瞬。

でも、確かに。

諒の腕が、わずかに強くなる。

「……まだ気になるか」

低い声。

奈々は否定しない。

「大事な人だから」

正直に言う。

嘘をつきたくなかった。

諒は少しだけ黙る。

そして言う。

「俺もだ」

奈々が顔を上げる。

「俺にとっても、あいつは大事だ」

静かな声だった。

嫉妬でも怒りでもない。

ただ、事実。

その成熟が、奈々の胸を打つ。

「だから」

諒は続ける。

「ちゃんと幸せにする」

その言葉は重い。

甘くない。

覚悟の響きだった。

奈々は小さく頷く。

今、隣にいる体温。

それを、自分で選んだ。

完璧じゃない。

少し痛みもある。

でも、それでいい。

諒の胸に顔を埋める。

鼓動が聞こえる。

その音が、今の奈々の未来だった。