あの公園で、君に会えたら

夕方の公園は、思ったより静かだった。

ベンチの前に立った奈々は、小さく息を吐く。

ここは三人の場所だった。

砂場。
滑り台。
線香花火。
受験前に缶コーヒーを飲みながら未来を語った夜。

全部、ここにある。

足音が近づく。

「奈々」

振り返ると、颯太がいた。

優しい顔。
でも今日は、その奥に覚悟が見える。

「呼び出してごめん」

「ううん。……分かってた」

苦く笑う。

その瞬間、奈々の胸が締めつけられる。

逃げられない。

「颯太、私――」

声が震える。

颯太が静かに言う。

「ちゃんと聞くよ」

その優しさが、痛い。

「私、諒のこと放っておけない。
 それだけじゃなくて……好きなんだと思う」

沈黙。

風が強く吹く。

颯太は俯いたまま、何も言わない。

長い。

奈々は、初めて怖くなる。

やがて、颯太が息を吐いた。

「……そっか」

それだけ。

でも、声が少し掠れていた。

「分かってたよ」

ゆっくり顔を上げる。

目は赤くなっていない。
泣いていない。

でも、無理しているのが分かる。

「奈々があいつ見る目、昔から特別だった」

奈々の喉が詰まる。

「でもさ」

颯太は笑う。

「俺も本気だったよ」

初めて、少しだけ声が震えた。

「奈々と結婚する未来、普通に想像してた」

その一言が、胸をえぐる。

奈々の涙が落ちる。

「ごめん」

「謝んなって」

即座に返る。

でも今度は、笑えていない。

「好きになったのは俺の勝手だし」

少し間を置く。

「でも、正直きついわ」

その本音に、奈々は顔を上げられない。

沈黙。



「海外、行く」

颯太が言う。

「ロサンゼルス。来月」

奈々は小さく頷く。

「一緒に来てほしいって言ったけどさ」

少しだけ視線を逸らす。

「あれ、賭けだった」

初めて聞く本音。

「それでも俺を選んでくれたら嬉しいって」

苦く笑う。

「負けたな」

その言い方が、あまりに颯太らしくて、奈々は泣いた。



「俺たちの三人の時間さ」

颯太が言う。

「あれは本物だよな?」

「うん。宝物」

即答だった。

「ならいい」

少しだけ沈黙。

「でもさ」

颯太は続ける。

「すぐ今まで通りには戻れないと思う」

現実だった。

優しさだけでは済まない。

「俺、ちゃんと好きだったから」

奈々の胸が締めつけられる。

「時間くれ」

それは、幼馴染としての距離を保つための正直な言葉だった。

奈々は涙を拭き、頷く。

「うん」



歩き出そうとしたとき。

公園の入口に、見慣れた背中。

諒。

奈々の呼吸が止まる。

颯太も気づく。

小さく笑う。

「タイミング最悪だな」

でも、逃げない。

諒が近づく。

「……奈々。颯太」

空気が張る。

奈々は言う。

「話、終わった」

諒の目が揺れる。

颯太は二人を見る。

数秒。

そして、諒に向き直る。

「奈々、頼んだ」

その一言に、全部詰まっている。

諒は、ゆっくり頷く。

「任せろ」

短い。

でも本気だ。



颯太は奈々を見た。

少しだけ笑う。

「幸せになれよ」

今度は強がりじゃない。

祈りだった。

背中を向ける。

歩き出す。

奈々は、追いかけない。

それが選択だから。

背中が小さくなる。

胸が痛い。

でも――

隣に、温もりがある。

諒の手がそっと奈々の手を握る。

強くない。

確かめるみたいに。

奈々は目を閉じる。

終わった。

でも始まった。

全部失ったわけじゃない。

形が変わっただけだと、
いつか思える日が来ると信じて。

春の風が、三人の記憶を静かに揺らしていた。