刺繍に込めた本当の幸福

 豪華な屋敷に帰り着いた紳士は、淡い光灯る広間で、喉を鳴らして高笑いをしていました。

 彼がシルヴァンに手渡した、あの神々しく輝く「金の針」も「竜の髭」も、実はイーハトーブの聖なる森から来たものではありません。

 それは、巧妙に金メッキを施した真鍮(しんちゅう)の針と、ただの野獣の毛にすぎなかったのです。
 紳士は、鏡の中に映る卑しい自分を見つめ、忌々しげに舌を打ちました。

「どれほど金を積もうと、私の周りには死んだ羅紗(らしゃ)の塊しか集まらぬ。……だからこそ、あの仕立て屋の『命の宿った魔法』を、この手で握りつぶしてやりたいのだ」

 紳士の真の狙いは、あのお人好しの仕立て屋を騙し、呪われた「悪魔のハサミ」を使わせることにありました。

「はっはっはっ! 実に馬鹿な仕立て屋だ。あんな安物の偽物にまんまと躍らされ、自分の魂ともいえる記憶を、自らドブに捨ててしまうのだからな」

 紳士は、香水の染み付いたハンカチで口元を拭い、濁った瞳を窓の外へ向けました。

「せっかくだから、その仕立て屋が必死に守ろうとしていたあの透明な娘も、私の二番目か三番目の妻に迎えてやるとしよう。まあ、最も偽物で姿が見えるようになるのだったらの話だけどな」

 紳士の卑俗な悪意を封じ込めた招待状は、木枯らしに舞う枯葉のように、街中の家々へと配られていきました。